地球上には11,000種以上の鳥類が存在しています。その中で「一科一属一種」という極めて特殊な分類学的地位を占めるのはたった十数種だけ。
これらの鳥たちは、進化の長い歴史の中で独自の道を歩み、現在では科内にその種だけしか存在しない、まさに「進化の孤児」とも呼べる存在です。このような「超レア」と言っても過言でない、一科一属一種の鳥類種を、絶滅の危機に瀕している種から個体数が安定している種まで、それぞれの生態と保護の現状について紹介します。
そもそも「一科一属一種」とは?分類のしくみとその珍しさ

地球上には、数え切れないほどの生き物が暮らしています。その中で、「一科一属一種」と呼ばれる生き物たち、と言われても、普通は「珍しそう」くらいのイメージが湧く程度ではないでしょうか。

まずは「一科一属一種」の定義を確認して、その希少さと、分類学の仕組みを少し、知っておきましょう。
彼らは、進化の長い歴史の中で、まるで孤高の道を歩むかのように、たった一種でその系統を守り続けてきました。
分類の基本:「界・門・綱・目・科・属・種」
私たちの世界に国や県、市町村といった住所があるように、生き物たちの世界にも、それぞれの立ち位置を示す「分類階級」という住所のようなものがあります。これは、スウェーデンの博物学者カール・フォン・リンネが確立した考え方が基礎となっており、生き物たちが進化の過程でどのように分かれてきたのか、その関係性を示すためのものです。

住所のおかげで、ちゃんと郵便や荷物が配達されたり、地図で言ったことのない目的の場所にも行けたりします。同様に、その生き物が分類学上どこに位置するか、生物種ごとに決まっています。
基本となるのは、以下の7つの階級です。
- 界(かい)
- 門(もん)
- 綱(こう)
- 目(もく)
- 科(か)
- 属(ぞく)
- 種(しゅ)
上にある「界」が最も大きなグループで、下へ行くほどに小さなグループへと絞り込まれていきます。例えば、私たち人間(ホモ・サピエンス)をこの住所に当てはめてみると、「動物界」という大きな国の中の、「脊索動物門」→「哺乳綱」→「サル目」→「ヒト科」→「ヒト属」→「サピエンスという種」という流れになります。最後の「種」が、私たち一人ひとりを指す、最も基本的な単位となるのです。
「科」ってどんなグループ?

では、今回のテーマの鍵となる「科」とは、どのようなグループなのでしょうか?
「科」とは、骨格や体のつくり、生態などの基本的な特徴がよく似た「属」が集まった、一つの大きな家族(ファミリー)のようなものだとイメージすると分かりやすいかもしれません。
例えば、「イヌ科」というファミリーには、私たちがよく知るイヌが属する「イヌ属」の他に、キツネが属する「キツネ属」や、タヌキが属する「タヌキ属」などが含まれています。彼らはそれぞれ違う「属」ですが、どこか共通する雰囲気を持っていますよね。
同様に、「ネコ科」には、ライオンやトラなどが含まれる「ヒョウ属」と、イエネコやヤマネコが含まれる「ネコ属」などが集まっています。これもまた、しなやかな体つきや狩りのスタイルなど、ネコ科ならではの共通点で結ばれたファミリーなのです。
「一科一属一種」はかなりの個性派!
「一科一属一種」とは、この生物分類の3つの階級(科・属・種)全てが単一である生き物のことです。哺乳類で例えると、カモノハシが「カモノハシ科カモノハシ属カモノハシ」で一科一属一種に当たります。
現存する鳥類約1万種のうち、一科一属一種に該当するのは十数種のみです。これは全鳥類の約0.1%に相当し、ダイヤモンドよりも稀な存在と言えます。その希少性から「進化の孤児」とも呼ばれ、生物多様性保全の重要な指標となっています。

約一万種中、たった十数種?!
しかし、IOC World Bird Listの最新版(v15.1, 2024)では、鳥類の総種数は11,000種を超えており、分類の見直しも継続的に行われています。特に分子系統学的研究により、従来の「一科一属一種」とされていた種の中にも、再分類が検討されているものがあります。

これを考慮すると、厳密な意味での「一科一属一種」は十数種程度で、今後の議論や研究結果によって変動する可能性があります。
一科一属一種の生き物になる主な理由には、以下のようなことが挙げられます。
- 地理的隔離による独自進化
島や山岳地帯など、他の生物と隔離された環境で長期間生活することで、独自の進化を遂げ、他の近縁種が生まれにくくなります。 - 近縁種の絶滅
かつては複数の近縁種が存在していたものの、環境変化や天敵の出現、人間活動などによって他の種が絶滅し、最終的に1種だけが生き残った場合です。 - 特殊な生態や適応による競合回避
他の生物が利用しない特殊な食性や生態的ニッチに適応することで、他種との競争を避け、独自の系統が維持されることがあります。 - 進化の偶然性や歴史的経緯
進化の過程で偶然に特定の系統だけが残り、他の系統が消失した結果、一科一属一種となる場合もあります。
このような結果、一科一属一種になってしまった生き物は、他の生物と遺伝子を共有する近縁種を持たないため、個体群の遺伝的多様性が極めて低い特徴があります。この特性から、環境変化への適応力が弱く、絶滅リスクが高いものが多いことも現実です。

一科一属一種の生き物には、そもそも個体数の少ない種も多くいます。
絶滅の危機にある「一科一属一種」の鳥類たち

出典:WIKIMEDIA COMMONS『Male hihi (stitchbird) perched on a twig in sunlight』
一科一属一種の鳥の中には、極めて限られた生息地や環境の変化によって、絶滅の危機に瀕している種も少なくありません。ここでは、保全が急がれる絶滅危惧種の例を紹介します。
カグー(Rhynochetos jubatus)

出典:WIKIMEDIA COMMONS『Cagou』
和名:カグー(カンムリサギモドキ)
学名:Rhynochetos jubatus
分類:ツル目 カグー科 カグー属
分布:ニューカレドニア
保護状況:絶滅危惧IB類(EN)
カグーは、ニューカレドニア島だけに生息する固有種で、まさに「一科一属一種」を体現する鳥です。明るい灰色の羽毛と頭部の冠羽が特徴的で、地上を歩いて生活します。
飛ぶことができず、夜行性の習性を持ち、昼間は森林の中で静かに過ごします。

カグーはニューカレドニアの国鳥です。

出典:Wikipedia『カグー』
主にミミズやカタツムリ、昆虫などを食べる動物食性です。カグーの最大の脅威は、人為的に持ち込まれたイヌやネコによる捕食や、森林破壊です。かつては個体数が100羽まで減少した時期もありましたが、現在は保護活動によって約1,000羽まで回復しています。それでも依然として絶滅の危機に瀕しており、ニューカレドニア政府や国際的な保護団体による継続的な取り組みが不可欠です。
カグーは、進化の偶然と地理的隔離が生んだ「生きた化石」とも言える存在です。その希少性と独特な生態は、生物多様性の象徴として世界中から注目されています。
ヘビクイワシ(Sagittarius serpentarius)

出典:WIKIMEDIA COMMONS『Messager sagittaire Sagittarius serpentarius』
和名:ヘビクイワシ
学名:Sagittarius serpentarius
分類:タカ目 ヘビクイワシ科 ヘビクイワシ属
分布:サハラ砂漠以南のアフリカ大陸
保護状況:絶滅危惧IB類(EN)
ヘビクイワシは、アフリカのサバンナや草原に生息する大型の猛禽類で、ヘビクイワシ科ヘビクイワシ属の唯一の種です。全長100~150cm、翼開長126~135cmにもなる堂々たる体躯を持ち、特徴的な冠羽が目を引きます。
主に地上を歩き回り、ヘビ類や小型哺乳類、昆虫などを捕食します。特にコブラなどの毒蛇も素早く踏みつけて捕らえることから、現地では有用な鳥として親しまれています。

出典:WIKIMEDIA COMMONS『Sagittarius serpentarius -Kalahari-8-4c』

足長っ!!
しかし、草原の農地転換や密猟、生息地の分断化により、過去50年で個体数が50%以上減少し、絶滅危惧種に指定されています。アフリカの生態系において重要な役割を果たすヘビクイワシを守るためには、生息地の保全と地域社会との連携が欠かせません。
属名の「Sagittarius」は「射手・弓兵」の意味で、冠羽が矢羽のように見えることに由来しています。
ハシビロコウ(Balaeniceps rex)

出典:Wikipedia『ハシビロコウ』
和名:ハシビロコウ
学名:Balaeniceps rex
分類:ペリカン目 ハシビロコウ科 ハシビロコウ属
分布:アフリカ東部~中央部の湿地帯
保護状況:絶滅危惧II類(VU)

飼育員さんが大好きな上野動物園のハシビロコウも大人気ですね〜!
ハシビロコウは、「動かない鳥」として知られる大型の鳥類で、ハシビロコウ科ハシビロコウ属の唯一の種です。体長110~140cm、翼開長230~260cmにも達し、その名の通り大きな嘴が特徴的です。

出典:WIKIMEDIA COMMONS『Schuhschnabel fg02』
主に湿地や沼地に生息し、魚を狙って数時間もじっと動かずに待ち続ける習性があります。獲物が水面に浮上するのを待ち、一気に捕らえる姿は圧巻です。特にハイギョなどの古代魚を好んで食べます。
しかし、湿地開発や密猟、気候変動による生息環境の悪化により、個体数は減少傾向にあります。現在は5,000~8,000羽と推定され、国際的な保護活動が進められています。ハシビロコウは、アフリカの湿地生態系の象徴として、その存在自体が大きな価値を持っています。

学名の「Balaeniceps rex」は「クジラ頭の王様」という意味で、その独特な頭部の形状を表しています。
シロツノミツスイ(Notiomystis cincta)
和名:シロツノミツスイ
学名:Notiomystis cincta
分類:スズメ目 シロツノミツスイ科 シロツノミツスイ属
分布:ニュージーランド
保護状況:絶滅危惧IB類(EN)
シロツノミツスイは、ニュージーランド固有の鳥類で、2007年の遺伝子解析により分類学的に劇的な変更を受けた種です。発見時から長い間、オーストラリアからニューギニア、ニュージーランドにかけて生息するミツスイ科に分類されていましたが、DNA研究により全く異なる系統であることが判明しました。

出典:WIKIMEDIA COMMONS『Female hihi (stitchbird) perched on a twig』
最も特徴的なのは、オスの頭部から胸部にかけての美しい配色です。頭部は艶やかな黒色で、眼後部に白い羽毛が角のように突き出ており、これが和名「シロツノミツスイ」の由来となっています。胸部には鮮やかな黄色の帯があり、黒い頭部と白い下面を分けています。メスは全体的に地味な褐色で、白い角状の羽毛がない個体もいます。
シロツノミツスイの分類学的位置は極めて特異です。遺伝子解析の結果、ホオダレムクドリ科により近縁であることが分かりましたが、その分岐は漸新世(約3380万年前)と非常に古く、独自の進化を遂げてきました。このため、2007年に新しく設立されたシロツノミツスイ科(Notiomystidae)に単独で分類されることになり、真の「一科一属一種」となったのです。
現在の個体数は成熟個体で2,500~3,400羽と推定されており、19世紀にはリトル・バリア島以外では絶滅していました。しかし、保護活動により現在では他の島嶼保護区2カ所と北島本土の4カ所に再導入が成功しています。主食は花蜜ですが、昆虫類も摂食し、特に細長く下向きに湾曲した嘴は蜜を吸うのに適応しています。
個体数の安定している「一科一属一種」の鳥類たち

撮影者:banditrvp
すべての「一科一属一種」の鳥が絶滅寸前というわけではありません。中には広範囲に分布し、一定の個体数を維持している種も存在します。
そうした安定派の代表例を見てみましょう。

たくさん個体数が増えるタイプの種なのに「一科一属一種」であるということも、別の視点から見ると、とてもレアです。(数が多い方が分岐進化するグループが現れる確率が高くなるからです)
ツメバケイ(Opisthocomus hoazin)
和名:ツメバケイ
学名:Opisthocomus hoazin
分類:ツメバケイ目 ツメバケイ科 ツメバケイ属
分布:南米アマゾン川流域
保護状況:低懸念(LC)
ツメバケイは、南米アマゾン川流域の沼地や湿地、川沿いの水辺に生息する、非常に特異な鳥類です。分類学上、ツメバケイ目ツメバケイ科ツメバケイ属の唯一の種であり、「一科一属一種」の典型例です。
最も印象的な特徴は、雛の翼に2本ずつ生える「爪」です。雛はこの爪を使って木の枝から枝へと移動し、危険が迫ると水中に飛び込んで逃げ、再び爪で木に登るという行動を見せます。成鳥になると爪は失われますが、その進化の痕跡は始祖鳥との比較でも注目されます。

出典:WIKIMEDIA COMMONS『Hoatzins』

群れているように見えますね…
また、ツメバケイは鳥類では唯一、植物の葉を前胃(素嚢)で発酵させる消化システムを持っています。このため、体臭が強く「スティンクバード」とも呼ばれます。主に植物食で、花や新芽も食べることが知られています。

すごく臭いせいで人間に食べられなかったという説も!
現在、個体数は安定しており、絶滅の危機は低いと評価されています。
シュモクドリ(Scopus umbretta)
和名:シュモクドリ
学名:Scopus umbretta
分類:ペリカン目 シュモクドリ科 シュモクドリ属
分布:サハラ砂漠以南のアフリカ、マダガスカル、アラビア半島西南部
保護状況:低懸念(LC)
シュモクドリは、アフリカ大陸の広い範囲とマダガスカル、アラビア半島西南部に生息する、シュモクドリ科シュモクドリ属の唯一の種です。和名は「撞木(しゅもく)」に由来し、頭部の特徴的な形が印象的です。

「撞木(しゅもく)」は木槌のような形の鐘などを鳴らすための道具です。
シュモクドリの大きな特徴は、直径1.2メートルにもなる球形の巣を、小枝や泥、牛糞などで作り上げることです。この巣は横に小さな出入口が一つだけ開いており、多くのペアがテリトリー内に複数の巣を持っていますが、実際に使うのはそのうちの一つだけです。
生息域が広く、湿地や川辺など水辺を好みます。個体数は安定しており、絶滅の危機に瀕していません。

英名では「hammerhead」と呼ばれ、嘴と冠羽が首に対してほぼ直角に位置し、ハンマーの頭のように見えることに由来しています。
オオブッポウソウ(Leptosomus discolor)

出典:WIKIMEDIA COMMONS『Leptosomus discolor male』
和名:オオブッポウソウ
学名:Leptosomus discolor
分類:オオブッポウソウ目 オオブッポウソウ科 オオブッポウソウ属
分布:マダガスカル、コモロ諸島
保護状況:低懸念(LC)
オオブッポウソウは、マダガスカルとコモロ諸島にのみ生息する、オオブッポウソウ科オオブッポウソウ属の唯一の種です。その系統的位置は長く議論されてきましたが、近年は単独でオオブッポウソウ目を形成するとする説が有力です。

出典:WIKIMEDIA COMMONS『Leptosomusdiscolor』
全長約50cmの中型の鳥で、森林の上層部で活動します。主に大型昆虫、爬虫類、小型哺乳類などを捕食する動物食性です。生態についてはまだ解明されていない点も多く、今後の研究が期待される種です。
個体数は安定しており、絶滅の危機は低いと評価されています。英名は「Cuckoo-roller」といい、Cuckoo(カッコウ)の部分は鳴き声や見た目が「カッコウ」に似ているとされたことに、Roller(ローラー)の部分はブッポウソウ科(Roller)」の鳥のように、飛行中に“ローリング(横回転)”するような飛び方をすることからこの名前がつけられました。

実際にはブッポウソウ科とは近縁ではなく、現在は独立した「オオブッポウソウ科(Leptosomidae)」に分類されています。
ジャノメドリ(Eurypyga helias)
和名:ジャノメドリ
学名:Eurypyga helias
分類:ジャノメドリ目 ジャノメドリ科 ジャノメドリ属
分布:中南米の熱帯雨林
保護状況:低懸念(LC)
ジャノメドリは、中南米の熱帯雨林に生息する、ジャノメドリ科ジャノメドリ属の唯一の種です。和名の「蛇ノ目」は、翼と尾羽に現れる目玉模様(眼状斑)に由来します。
標高1,800m以下の熱帯雨林内の河川や池沼、湿原などに生息し、単独やペア、家族群で生活します。昼行性で、夜は樹上で休みます。危険を感じると翼と尾羽を広げて眼状斑を見せ、威嚇します。

出典:Wikipedia『ジャノメドリ』
食性は動物食で、昆虫、クモ、甲殻類、貝類、魚類、カエルなどを捕食します。繁殖は樹上に巣を作り、雌雄で抱卵・育雛を行います。
個体数は安定しており、絶滅の危機は低いと評価されています。
ミサゴ(Pandion haliaetus)

出典:WIKIMEDIA COMMONS『OspreyNASA』
和名:ミサゴ
学名:Pandion haliaetus
分類:タカ目 ミサゴ科 ミサゴ属
分布:ほぼ全世界
保護状況:低懸念(LC)、一部地域で準絶滅危惧
ミサゴは、極地を除くほぼ全世界に分布する、ミサゴ科ミサゴ属の唯一の種です。全長54〜64cm、翼開長150〜180cm魚食性の猛禽類で、「ウオタカ」とも呼ばれます。

撮影:PINKI_ISHAN
特徴は、魚を捕らえるための特殊な適応です。足の外側には鋭い棘(スピキュール)があり、魚をしっかりと掴むことができます。また、第4趾が反転し、獲物をしっかりと保持します。鼻孔には弁があり、水中に飛び込む際に水が入るのを防ぎます。

英名は「Osprey(オスプレイ)」アメリカの垂直離着陸機V-22の愛称ですね!

出典:Wikipedia『V-22 (航空機)』
主に水面を低空飛行し、魚を見つけると急降下して両足で捕らえます。営巣は水辺近くの樹木や崖、送電線の鉄塔などで行われます。
かつては農薬やPCBの影響で世界的に減少しましたが、現在は個体数が回復し、絶滅の危機は低いと評価されています。

ただし、一部地域では準絶滅危惧に指定されています。
シロボシサザイチメドリ(Elachura formosa )
出典:Wikipedia『Spotted elachura』
和名:シロボシサザイチメドリ(エラチュラ)
学名:Elachura formosa
分類:スズメ目 エラチュラ科 エラチュラ属
分布:中国、インド、ネパール、バングラデシュ、ブータン、ラオス、ミャンマー、ベトナム
保護状況:低懸念(LC)
シロボシサザイチメドリは、2014年の分子系統学的研究により、従来のチメドリ科から独立し、新しい科「エラチュラ科(Elachuridae)」が創設された、「一科一属一種」です。この研究により、この種はスズメ目の中で最も基幹的な系統の一つであり、他に近縁種を持たない古代的な系統であることが判明しました。

出典:Wikipedia『Spotted elachura』
シロボシサザイチメドリは、東ヒマラヤから東南アジアの亜熱帯山地林に生息する、全長約10cmの小型鳥類です。2014年まで「Spelaeornis formosus」としてチメドリ科に分類されていましたが、包括的なDNA解析により、スズメ目Passeridaの中で独自の進化系統を歩んできた「生きた化石」であることが判明しました。
外見は全体的に暗褐色で、翼と尾に赤褐色が見られ、体全体に白い斑点があり、翼と尾には黒い縞模様が入ります。生息環境は亜熱帯または熱帯の湿潤な山地林で、特に厚いシダの地被、苔むした岩、倒木の朽ちた幹、茂み(しばしば小川や小さな流れの近く)、長い草や低木地を好みます。
シロボシサザイチメドリは極めて人目につきにくく、密生した下生えに隠れて生活しています。オスの高音の鳴き声は、アジア大陸の他のどの鳥の鳴き声とも似ておらず、その独特さが系統的独自性を反映しています。
おしくも「一科一属一種」でない鳥類たち
「一科一属一種」の定義には当てはまらないものの、分類学的に極めて特異で注目すべき鳥類たちがいます。ここで紹介する鳥たちは、科内に他の属や種が存在するため厳密には「一科一属一種」ではありませんが、それぞれが独特な進化史と生態を持つ貴重な存在です。
このような「おしくも該当しない」種たちも、生物多様性の観点から非常に重要な価値を持っています。
カカポ(Strigops habroptilus)

出典:ニュージーランド政府観光局X
和名:カカポ(フクロオウム)
学名:Strigops habroptilus
分類:オウム目 フクロウオウム科 フクロウオウム属
分布:ニュージーランド
保護状況:絶滅危惧IA類(CR)
カカポは「フクロウオウム科フクロウオウム属」の唯一の種ですが、同じフクロウオウム科にはミヤマオウム属(Nestor)など他の属も含まれるため、「一科一属一種」には該当しません。

出典:WIKIMEDIA COMMONS『Strigops habroptilus 』

「カカポ」という呼び名はマオリ語の kākāpō(カーカーポー)「夜のオウム」から来ています。
カカポは、世界で唯一飛べないオウムとして知られるニュージーランド固有の夜行性鳥類です。最大で体重4kgを超えることもあり、オウム類で最も重い種でもあります。顔が平たくフクロウに似ていることから「フクロウオウム」とも呼ばれます。独特なのは、繁殖期にオスが「レック」と呼ばれる求愛行動を行う点です。

寿命は60年ほどで「世界で最も長生きするオウムかも」と言われています。のんびりした性格で、警戒心も高くないようです。
個体数はわずか百数十羽程度で、すべてに名前が付けられ、徹底した保護下にあります。人懐っこい性格やユーモラスな行動も人気ですが、外来種による捕食や生息地の喪失で絶滅の瀬戸際に立たされています。
キーウィ属(Apteryx)

出典:WIKIMEDIA COMMONS『Apteryx mantelli -Rotorua, North Island, New Zealand-8a』
和名:キーウィ
学名:Apteryx
分類:キーウィ目 キーウィ科 キーウィ属
分布:ニュージーランド南島北西部
保護状況:絶滅危惧II類(VU)
キーウィは「キーウィ科キーウィ属」の唯一の属ですが、キーウィ属には現在5種が存在するため、「一科一属一種」には該当しません。キーウィ科は単型科(monotypic family)ではありますが、属内に複数種が含まれる「一科一属多種」の状態です。

出典:ニュージーランド政府観光局X

キーウィは非公式ながらニュージーランドの国のシンボルとして知られています。
キーウィは、世界で最も体の大きさに対する卵の割合が大きな鳥の一つで、雌の体重の最大20%に相当する巨大な卵を産みます。特徴的なのは、オスとメスがほぼ平等に抱卵を分担することです。
嗅覚が非常に発達しており、長い嘴の先端にある鼻孔を使って地中の餌を探します。

出典:Wikipedia『Great spotted kiwi』
現在の最大の脅威は、外来哺乳類による捕食で、特にイタチ類が雛の生存率を大幅に低下させています。保護活動として、定期的な捕食動物の駆除、特にイタチ類に対する航空散布による駆除と地上トラップによる補完的な対策が実施されています。
ヤンバルクイナ (Hypotaenidia okinawae)

出典:WIKIMEDIA COMMONS『Okinawa Rail imported from iNaturalist photo 388492786 on 12 June 2024』
和名:ヤンバルクイナ
学名:Hypotaenidia okinawae
分類:ツル目 クイナ科 ヤンバルクイナ属
分布:沖縄島北部(やんばる地域)
保護状況:絶滅危惧IB類(EN)
ヤンバルクイナは「クイナ科ヤンバルクイナ属(Hypotaenidia)」に分類されますが、クイナ科には他にも多数の種が含まれているため、「一科一属一種」には該当しません。IOCとIUCNではヤンバルクイナ属として独立させていますが、クイナ属(Gallirallus)に入れる意見もあります。
ヤンバルクイナは、沖縄島北部のやんばる地域にのみ生息する固有種で、1981年に新種として記載された比較的最近発見された鳥類です。全長約31cmで、飛翔能力を失った地上性の鳥類として知られています。
ヤンバルクイナの最も特徴的な点は、オレンジ色の嘴と鮮やかなオレンジ色の脚、そして腹部の黒地に白い横縞模様です。森林の下層部で生活し、小さな昆虫、ミミズ、カタツムリ、果実などを食べています。ハブなどの地上性捕食者を避けるため、夜は高い木の上で眠ります。

出典:WIKIMEDIA COMMONS『Dobutsuchui-Yanbarukuina』
現在の個体数は極めて少なく、2012年には約1,500羽と推定されていましたが、2016年のIUCN評価では成熟個体が480羽まで減少したとされています。主な脅威は生息地の破壊、マングースやノネコなどの外来動物による捕食、そして交通事故です。
マダガスカルヘビワシ(Eutriorchis astur)

出典:Wikipedia『マダガスカルヘビワシ』
和名:マダガスカルヘビワシ
学名:Eutriorchis astur
分類:タカ目 タカ科 マダガスカルヘビワシ属
分布:マダガスカル北東部・東部
保護状況:絶滅危惧IB類(EN – Endangered)
「マダガスカルヘビワシ属」にはこの一種しかいません。しかし、この種が属する「タカ科」は、世界中に多種多様なワシやタカを含む巨大なファミリーであるため、「一科一属一種」の定義からは外れます。
マダガスカルヘビワシは、1930年に確認されて以降、実に50年以上にわたって目撃例がなく、研究者の間では絶滅したとさえ考えられていました。しかし1988年、世界が驚く中で2羽が再発見され、その生存が確認されたのです。
その暮らしは今なお多くの謎に包まれています。分かっているのは、原生林の木々の間を静かに移動し、林冠の下で獲物を待ち伏せる、忍耐強いハンターであるということです。名前に「ヘビ」とあり、トカゲやヘビを主に食べると考えられていますが、主な獲物はカメレオンやカエルという意見もあり、その動きは極めて慎重かつ静かだと言われています。

胃の中からカメレオンが発見されたことがあるそうです!
1999年の報告では、確認されている個体数は成熟個体でわずか16羽ほどと推定され、絶滅の危機に瀕しています。最大の脅威は、焼畑農業や違法伐採による、彼らの唯一の住処である熱帯雨林の破壊です。
ダチョウ(Struthio camelus)

出典:Wikipedia『ダチョウ』
和名:ダチョウ
学名:Struthio camelus
分類:ダチョウ目 ダチョウ科 ダチョウ属
分布:アフリカ
保護状況:低懸念(LC)
ダチョウは、世界最大の鳥類として名高いアフリカ原産の飛べない鳥です。科(Struthionidae)および属(Struthio)には複数の化石種や亜種、時には別種とされる系統があるため、「一科一属一種」には当てはまりません。

出典:Wikipedia『ダチョウ』
ダチョウは、現存する鳥類最大種であり、飛ぶことはできませんが、時速70kmで走ることができる驚異的な脚力を持っています。大きな目と長い首、二本指の足が特徴です。古顎類という原始的な鳥類の系統に属し、進化学的にも重要な存在です。アフリカのサバンナで暮らし、卵も世界最大級です。
野生個体は安定していますが、地域によっては乱獲や生息地の開発が懸念されています。
これらの鳥たちは、「一科一属一種」ではないものの、進化や生態の面で非常にユニークな存在です。それぞれの分類学的位置や絶滅リスクも踏まえ、自然界の多様性とその大切さを感じていただければ幸いです。
一科一属一種の生物と生物多様性

出典:Wikipedia『シロツノミツスイ』
18世紀にリンネが確立した生物分類体系は、現代においても生物の進化的関係を理解する基盤となっています。その体系の中で、科・属・種すべてが単一である「一科一属一種」という存在は、進化の長い歴史の中で起きた偶然と必然が織りなす奇跡の産物といえるでしょう。
現在11,000種以上記載されているの鳥類の中で、わずか十数種種しか存在しないこれらの鳥たちは、地理的隔離や近縁種の絶滅といった様々な要因により、孤高の進化を遂げてきました。これらの種は、独特な生態系での役割を持っていることも多くあります。ヘビクイワシはアフリカのサバンナで毒蛇の個体数調整に貢献し、ミサゴは世界中の水域で魚類のバランスを保つ重要な役割を担っています。
一つの種が失われることは、その生態系全体に予想できない影響を与える可能性があります。これは、私たち人間も含め、生命の循環の中にあるすべての生物種に言えることです。
「一科一属一種」の鳥類たちは、地球の生物多様性がいかに複雑で美しく、そして繊細なバランスで成り立つ脆いものかを私たちに教えてくれます。彼らの存在は、私たちが自然と共生する未来を築くための道しるべとなるはずです。

生物の分類は現在も研究・議論されています。ここで紹介した内容も、新しい情報が得られたら変更していこうと思います。

参考
IOC『IOC World Bird List v15.1』
Planet of Birds『Madagascar Serpent Eagle (Eutriorchis astur)』
NATIONAL GEOGRAPHIC『動物たちの奇妙な手:ツメバケイ』(2024年1月)
eBird『シロボシサザイチメドリ Elachura formosa』