分類学上、その科にたった一属一種しかいない究極の珍獣、「一科一属一種」の哺乳類がいることを知っていますか?
進化の奇跡か、それとも偶然の生き残りか…?そんなレア度SSRとも言える「一科一属一種」の哺乳類の中から、代表的なものを紹介します。
絶滅危惧種から個体数が比較的落ち着いている種まで、その不思議な生態と進化の謎を見ていきましょう!
一科一属一種とは?生物分類とその希少性

「一科一属一種」の生物は、「進化の孤児」とも呼ばれる特別な存在です。彼らは分類学の枠組みの中で「唯一無二」の地位と言え、生物多様性の奥深さを教えてくれます。
生物分類の仕組み:分類の階層「種」から「界」まで
私たちの周りにいるたくさんの生き物たちは、実は科学者たちによって、その特徴や進化の道のりに基づいて、きちんと整理整頓されています。これを「生物の分類」と呼び、図書館の本棚のように、いくつかの段階(階層)に分けてグループ化されているのです。

いつ、誰が見ても「これはここ!」という「分類学上の位置」がわかるように整理されています。住所と名前みたいなものですね!
一番大きなグループが「界」で、そこから「門」「綱(こう)」「目(もく)」「科」「属」、そして一番小さな単位である「種」へと、だんだん細かく分けられていきます。私たち人間ももちろん、分類されています。
階層 | 和名 | 学名(ラテン語) |
---|---|---|
界 | 動物界 | Animalia |
門 | 脊索動物門 | Chordata |
綱 | 哺乳綱 | Mammalia |
目 | 霊長目(サル目) | Primates |
科 | ヒト科 | Hominidae |
属 | ヒト属 | Homo |
種 | ヒト(ヒト種) | Homo sapiens |
このように人は生物分類上「動物界-脊索動物門-哺乳綱-霊長目-ヒト科-ヒト属-ヒト種(Homo sapiens)」に位置づけられます。※
※さらに詳しく
生物分類では、主要な階層(界・門・綱・目・科・属・種)の間に「亜綱」「亜目」「亜科」など「亜」がつく階層が設けられることがあります。これらは、分類の必要性に応じて、より細かくグループ分けしたい場合に使われます。
たとえば「綱」の下には「亜綱(subclassis)」が置かれ、哺乳綱では「獣亜綱(Theria)」や「原獣亜綱(Prototheria)」などが該当します。さらに「亜綱」の下には「下綱(infraclassis)」が設けられることもあり、哺乳類の場合「真獣下綱(Eutheria)」や「後獣下綱(Metatheria)」などが含まれます。
同様に、「目」の下には「亜目」、「科」の下には「亜科」があり、たとえばバラ科では「バラ亜科」「サクラ亜科」などに分けられることがあります。また、「種」の下には「亜種(subspecies)」が設けられ、地理的な違いなどによって区別される場合があります。
このように、「亜」がつく階層は、分類の柔軟性を高め、より自然界の多様性や進化の過程を細かく表現するために用いられています。
「一科一属一種」とは?:たった一種だけの特別なファミリー
「一科一属一種」とは、科・属・種の全てが単一である生物を指します。例えばジュゴンは「ジュゴン科ジュゴン属ジュゴン」のみで構成され、近縁種が存在しません。

その動物一種のためだけに「科」という大きなファミリーが用意されているような、非常に特別なケースなのです。
「一科一属一種」になるのはなぜ?
主な要因は以下の3つと言われています。
- 地理的隔離(島嶼・山岳地など)
- 近縁種の絶滅(進化のデッドエンド)
- 特殊な適応(他種と競合しない生態)
例えばイチョウは中生代に繁栄した後、氷河期を経て1種のみ生存しました

進化の多様性と偶然性によるものなのですね。
絶滅の危機にある「一科一属一種」の哺乳類たち

誰もが知るごく普通の哺乳類の影で、地球には「たった一種」しか生き残っていない特別なファミリーが存在しています。その多くが絶滅の淵に立たされるいるのが現実です…。

分類学の枠組みでは、系統樹の孤立した枝の最も先端に位置すると言えます。
アイアイ
- 和名:アイアイ
- 学名:Daubentonia madagascariensis
- 分類:霊長目 アイアイ科 アイアイ属
- 分布:マダガスカル
- 保護状況:絶滅危惧IB類(EN)
アイアイは、その一度見たら忘れられない独特な姿で知られる、マダガスカル固有の夜行性霊長類です。分類学上、アイアイ科アイアイ属の唯一の種であり、まさに「一科一属一種」を代表する存在と言えるでしょう。
彼らの最も際立った特徴は、細く長く伸びた中指です。この指を使い、木の幹をコンコンと叩いて(タッピング)、中にいる昆虫の幼虫の出すかすかな音や振動を探り当てます。
そして、鋭い門歯で樹皮に穴を開け、この特殊な指で巧みに幼虫を引っ張り出して食べるのです。この採食方法は他の霊長類には見られず、「森のキツツキ」とも呼ばれるそうです。
しかし、その奇妙な外見から現地では不吉な動物として忌み嫌われ、迫害された歴史もあり、さらに森林破壊と共に、個体数を減らしています。
ブタバナコウモリ

出典:Wikipedia『キティブタバナコウモリ』
- 和名:ブタバナコウモリ(キティブタバナコウモリ)
- 学名:Craseonycteris thonglongyai
- 分類:コウモリ目 ブタバナコウモリ科 ブタバナコウモリ属
- 分布:タイ(西部)、ミャンマー
- 保護状況:危急種(VU)
ブタバナコウモリは、親指ほどの大きさしかない世界最小の哺乳類として知られる、タイとミャンマーの特定の洞窟に生息する夜行性のコウモリです。分類学上、ブタバナコウモリ科ブタバナコウモリ属の唯一の種であり、アイアイと同じく「一科一属一種」を体現する非常に貴重な存在です。
ブタバナコウモリの最も際立った特徴は、体重わずか2グラムという極めて小さな体格と、名前の由来となった豚の鼻に似た小さな鼻口部です。日中は石灰岩の洞窟の奥で休み、夕暮れ時や夜明けの短い時間に活発に飛び回り、周囲の森林で小さな昆虫を捕食します。
発見者の一人であるタイの生物学者キティ・トンロンヤ氏にちなみ、「キティ・ホッグノーズド・バット(キティブタバナコウモリ)」とも呼ばれます。その限られた生息地は非常に危うい状況にあり、ねぐらである洞窟への観光客の立ち入りによる攪乱や、餌場となる森林の伐採などが、ブタバナコウモリの生存を脅かす大きな要因となっています。
ジュゴン

出典:Wikipedia『ジュゴン』
- 和名:ジュゴン
- 学名:Dugong dugon
- 分類:ジュゴン目 ジュゴン科 ジュゴン属
- 分布:インド洋〜西太平洋沿岸(日本・沖縄、オーストラリア北部、東南アジア、紅海など)
- 保護状況:危急種(VU)/日本国内(沖縄本島周辺)では絶滅危惧IA類 (CR)
ジュゴンは「人魚伝説」のモデルとも言われる海生哺乳類で、現生で唯一のジュゴン科・ジュゴン属の種です。全長3m、体重450kgにもなる大型ですが、主食は海草で、海底の藻場をゆっくりと移動しながら生活します。
寿命は70年以上とされ、繁殖サイクルが非常に長く、個体数の増加がきわめて緩やかなのが特徴です。近年は生息地である海草藻場の消失や漁具への誤捕獲、海洋開発、気候変動の影響で世界的に個体数が急減しています。
特にタイや沖縄などでは近年、餌不足による衰弱死や事故死が相次ぎ、現地の科学者や保護団体が緊急対策を進めています。

最も近縁だったステラーカイギュウ(ジュゴン科ステラーカイギュウ属)が1768年に絶滅したため、ジュゴンは「一科一属一種」になりました。
フクロアリクイ

出典:Wikipedia『フクロアリクイ』
- 和名:フクロアリクイ
- 学名:Myrmecobius fasciatus
- 分類:フクロアリクイ目 フクロアリクイ科 フクロアリクイ属
- 分布:オーストラリア西部・南部の乾燥地帯
- 保護状況:絶滅危惧種(EN)
フクロアリクイは、オーストラリア特有の哺乳類で、分類上は「フクロアリクイ目」の唯一の現生種です。つまり、フクロアリクイ科フクロアリクイ属の唯一の種であり、「一科一属一種」の定義を満たす中でも、極めて孤立した哺乳類です。
体長は約20cm〜27cm、尾を含めると40cmほどで、赤褐色の体毛と背中の白い縞模様が特徴的です。アリやシロアリを主食とし、長い舌を使って地中から餌を捕食します。有袋類では珍しく完全な昼行性で、乾燥地帯に適応した生態を持っています。
かつてはオーストラリア全土に広く分布していたものの、ヨーロッパ人の入植以降、外来捕食動物(キツネやネコ)の影響と生息地の破壊により個体数が激減してしまいました。
パカラナ

出典:Wikipedia『パカラナ』
- 和名:パカラナ
- 学名:Dinomys branickii
- 分類:パカラナ科 パカラナ属
- 分布:南米(コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビアなどのアンデス山麓)
- 保護状況:危急種(VU)
パカラナは、現生で唯一パカラナ科・パカラナ属に属する大型の齧歯類です。体長は約47〜79cm、体重は10〜15kgにもなり、尾は20cmほど。
全身は黒や暗褐色の粗い毛で覆われ、体側に白い斑点が並ぶのが特徴です。

かつてこの科には、約200万年前に絶滅した「巨大ネズミ」Josephoartigasia(体重1トン超!)を含む多様な種が存在していましたが、現在生き残っているのはこのパカラナのみです。
リスのような姿勢で前足を使って食事をし、主に植物の茎や葉、果実を食べます。夜行性で、昼間は岩の割れ目や地面の穴で休みますが、危険を感じると素早く斜面や樹上、巣穴に逃げ込みます。
パカラナは「パカに似た動物」という意味で名付けられましたが、パカとは異なり逃げ足が遅く、攻撃力もないため、肉食獣や人間に狙われやすい存在です。現地では食用やペット目的の狩猟によって個体数が減少傾向にあり、生息地の森林伐採も脅威となっています。

出典:Wikipedia『パカ』
個体数減少が深刻な「一科一属一種」の哺乳類

出典:WIKIMEDIA COMMONS『巣穴から出てくるカモノハシ』
幸いにも、現在のところ「絶滅危惧種」には分類されていないものの、その存在が決して安泰とは言えない「一科一属一種」の仲間たちもいます。これらは個体数の減少が心配される一方で、私たちの想像を超える不思議な生態を持っています。
カモノハシ

出典:Wikipedia『カモノハシ』
- 和名:カモノハシ
- 学名:Ornithorhynchus anatinus
- 分類:カモノハシ科・カモノハシ属
- 分布地:オーストラリア東部
- 保護状況:準絶滅危惧(NT)
カモノハシは、哺乳類でありながら卵を産むという、極めて原始的でユニークな特徴を持つ「単孔類」の代表的な動物です。カモノハシ科カモノハシ属の唯一の現生種であり、まさに「一科一属一種」の進化の傑作と言えるでしょう。
その姿は、カモのようなくちばし、ビーバーのような尾、カワウソのような体と水かきのある手足を持ち、まるで様々な動物のパーツを組み合わせたかのようです。この幅広いくちばしには微弱な電気を感知する特殊なセンサーが備わっており、水中で獲物(昆虫の幼虫や甲殻類など)が発する生体電気を捉えて捕食します。

水中での採餌や巣穴の掃除など独自の生活様式を持っています。
さらに驚くべきことに、オスの後ろ足には毒のある蹴爪(けづめ)があり、これは哺乳類では非常に珍しい防御手段です。その不思議な生態と形態は、今も多くの研究者の関心を集めています。

不思議な哺乳類の代表格ですね!
チロエオポッサム

出典:Wikipedia『チロエオポッサム』
- 和名:チロエオポッサム
- 学名:Dromiciops gliroides
- 分類:ミクロビオテリウム目 ミクロビオテリウム科 チロエオポッサム属
- 分布:チリ南部〜アルゼンチン南部の冷温帯林(パタゴニア)
- 保護状況:準絶滅危惧(NT)/※2023年の調査で一部地域では個体数急減が確認され、見直し議論もあり
チロエオポッサムは、現生で唯一ミクロビオテリウム目に属する、南米固有の小型有袋類です。体長8〜13cm、尾長9〜13.5cm、体重16〜31gと小柄で、尾には脂肪を蓄えることができます。
夜行性かつ樹上性で、竹やぶの多い冷涼湿潤な森林に生息し、タケの葉で球状の巣を作り冬季は冬眠します。主な食物は昆虫や果実で、育児嚢を持ち、1回に2~4頭の子を産みます。
進化的には、オーストラリア有袋類の祖先に最も近い現生種とされ、南米から南極を経てオーストラリアへ有袋類が広がった進化史を物語る「生きた化石」として知られています。近年、生息地の森林伐採や分断、外来種(イエネコ)による捕食などで個体数が減少し、IUCNでは「準絶滅危惧」に指定されています。
チロエオポッサムにしか寄生しないダニや、種子散布に依存する植物も存在し、この小さな哺乳類の絶滅は生態系全体に大きな影響を及ぼすと懸念されています。現在、保護区での生態調査や保全活動が進められています。
ツチブタ
- 和名:ツチブタ
- 学名:Orycteropus afer
- 分類:管歯目 ツチブタ科 ツチブタ属
- 分布地:アフリカ大陸全域(サハラ以南)
- 保護状況:低懸念(LC)
ツチブタは、哺乳綱の中でただ一種だけで「管歯目(かんしもく)」を形成するという、極めて特異な分類学的地位にある動物です。つまり「一目一科一属一種」という、他に全く近縁種がいない究極の孤高の存在と言えます。

かつては貧歯目(現在のアリクイ目(異節目))に分類されていましたが、現在では独立した原始的な有蹄類(蹄を持つグループ)の「管歯目」として分類されています。
その名前やブタに似た鼻先から誤解されがちですが、ブタの仲間とは全く異なります。夜行性で、強靭な爪と力強い前足を使ってシロアリやアリの巣を掘り起こし、長く粘着性のある舌でアリを舐めとって食べます。

舌は30cmほども伸びるそうです!
その歯はエナメル質を持たず、象牙質の細い管が多数集まった六角柱状の特殊な構造をしており、生涯伸び続けるというユニークな特徴も持っています。アフリカの生態系において、土壌を耕し、他の動物に巣穴を提供するなど重要な役割も担っています。
プロングホーン

出典:Wikipedia『プロングホーン』
- 和名:プロングホーン
- 学名:Antilocapra americana
- 分類:プロングホーン科・プロングホーン属
- 分布地:北アメリカ大陸西部
- 保護状況:低懸念(LC)
プロングホーンは、北アメリカの草原や砂漠地帯を疾走する、プロングホーン科プロングホーン属の唯一の現生種です。その最大の特徴は、シカの角とは異なる構造を持つ、先端が枝分かれした角です。
さらに驚くべきことに、この角の表面を覆う角鞘(かくしょう)と呼ばれる部分は、年に一度抜け落ちて新しく生え変わるのです。これは他のどの角を持つ動物にも見られない、プロングホーンだけの独特な特徴です。

出典:Wikipedia『プロングホーン』
また、最高時速は80km以上に達すると言われ、チーターに次ぐ陸上動物とも称されるほどの俊足の持ち主であり、その大きな目は優れた視力を誇ります。

最高時速の持続時間は5分ほどですが、時速70km以上の速度を維持しつつ長距離を走ることができるとされ、長距離走においてはチーター以上の速さを誇る動物と言われています。
これらの動物たちは、進化の多様な道筋や生態の不思議さを象徴しています。今後も生息環境の変化に注意しながら、その暮らしぶりを見守っていきたいものです。
おしくも「一科一属一種」に当てはまらない哺乳類

「一科一属一種」には当てはまらないものの、それに匹敵するほど個性的で、進化の歴史を感じさせる魅力的な哺乳類たちも数多く存在します。ここでは、そんな「おしい!」仲間たちにスポットライトを当ててみましょう。

ここで紹介する「おしくも一科一族一種」でない動物は、筆者が「一科一族一種じゃないかな〜」と思って調べた結果、そうでなかったものが多く含まれます。
レッサーパンダ

出典:WIKIMEDIA COMMONS『Panda minore』
- 和名:レッサーパンダ
- 学名:Ailurus fulgens
- 分類:レッサーパンダ科・レッサーパンダ属
- 分布地:ヒマラヤから中国南部
- 保護状況:絶滅危惧種(EN)
レッサーパンダは、ネコのような体格とフサフサの尾を持ち、竹を主食とする哺乳類です。かつてはアライグマやクマと近縁とされていましたが、現在では独自の「レッサーパンダ科」に分類されるほど特異な存在です。
ただし、分類内には近年絶滅したとされる別の亜種があり、「唯一種」ではない可能性が指摘されています。その愛らしさとは裏腹に、野生では生息域の破壊や密猟により数を減らしています。

さらに近年では、
①ニシレッサーパンダ(またはねネパールレッサーパンダ):Ailurus fulgens fulgens
②シセンレッサーパンダ:Ailurus fulgens styani
という2種に分けることが支持されつつあるようです。
キリン・オカピ

出典:Wikipedia『キリン』
- 和名:キリン/オカピ
- 学名:Giraffa camelopardalis / Okapia johnstoni
- 分類:キリン科(Giraffidae)・キリン属/オカピ属
- 分布地:サバンナ(キリン)/コンゴ盆地(オカピ)
- 保護状況:危急種(VU):キリン/絶滅危惧種(EN):オカピ
現存するキリン科の動物は、キリンとオカピのたった2種です。非常に近縁ながら属が異なるため、それぞれキリン科の「一属一種」に分類されます。

出典:Wikipedia『キリン科』
オカピは主にヨーロッパからのアフリカ探検家によってその存在が知られるようになり、1899年に毛皮の一部がイギリスに送られ、当初はウマ属(Equus)の新種として発表されました。1901年、頭骨や完全な毛皮が入手されたことで詳細な研究が進み、最終的に「キリン科(Giraffidae)」の新属「オカピ属(Okapia)」として正式に記載されました。
キリンとオカピは共通の祖先から分岐し、オカピは森林に、キリンはサバンナに適応して進化したと考えられています。

オカピの方がより原始的な体型を残しており、「首の伸びなかったキリン」とも呼ばれるそうです。
アマミノクロウサギ

出典:WIKIMEDIA COMMONS『Pentalagus furnessi 389484935』
- 和名:アマミノクロウサギ
- 学名:Pentalagus furnessi
- 分類:アマミノクロウサギ属・ウサギ科
- 分布地:奄美大島・徳之島(日本固有)
- 保護状況:絶滅危惧種(EN)
アマミノクロウサギは、「生きた化石」とも称される、日本固有の非常に古い系統のウサギです。世界で唯一の「Pentalagus」属に属しますが、科が共有されているため「一科一属一種」ではありません。

ウサギ科には他属(ノウサギ属など)が存在しますが、「アマミノクロウサギ属」は単一種です。
2025年の研究で、通常のウサギが1年で成熟するのに対し、アマミノクロウサギは約5年かかることが判明しました。島嶼環境での捕食者不在が「のんびり進化」を促したと考えられます。

奄美大島大和村ににアマミノクロウサギ研究・飼育施設「Quru Guru(くるぐる)」が開所したそうです!
ハイラックス

出典:Wikipedia『ケープハイラックス』
- 和名:ハイラックス(ケープハイラックス)
- 学名:Procavia capensis
- 分類:イワダヌキ科・イワダヌキ属
- 分布地:アフリカ・中東の岩場や森林地帯
- 保護状況:低懸念(LC)
ハイラックスは、岩場や崖地に生息し、足裏のゴム状パッドで垂直な壁も巧みに登る小型哺乳類です。ハイラックス属の現生種はProcavia capensisのみですが、同じハイラックス科には他にもアカイワダヌキ属(Heterohyrax)や、ツリーハイラックス属(Dendrohyrax)が存在するため「一科一属一種」には該当しません。

出典:Wikipedia『ミナミキノボリハイラックス』
ハイラックスは、モルモットのような見た目ながら、ゾウやジュゴンと共通の祖先を持つという意外な系統の哺乳類です。また、Procavia属内にも複数の亜種や化石種が知られています。

社会性が高く、群れで暮らし、警戒音や臭腺でコミュニケーションを取るなど、哺乳類として独特の生態を持っています。
ソレノドン

出典:Wikipedia『ソレノドン科』
- 和名:ソレノドン(ハイチソレノドンなど)
- 学名:Solenodon paradoxus ほか
- 分類:ソレノドン科・ソレノドン属
- 分布地:カリブ海諸島(ヒスパニオラ島、キューバ島)
- 保護状況:絶滅危惧種(ENまたはCR)
ソレノドンは、恐竜時代からほぼ姿を変えずに生き残った「生きた化石」とも呼ばれる夜行性の哺乳類です。ソレノドン属にはハイチソレノドン(Solenodon paradoxus)とキューバソレノドン(Solenodon cubanus)の2種が現存し、「一属一種」ではありません。

ソレノドンは約7600万年前(中生代の白亜紀後期)に他の哺乳類から分岐したと考えられています。ティラノサウルス・レックス” (Tyrannosaurus rex)が出現したのは、約6800万年前と言われているので、それよりも以前に独自の系統に分かれた、ということになります。
ソレノドンは、下顎の溝から毒を分泌するという、哺乳類として非常に珍しい特徴があります。複雑なトンネルを掘って生活し、主に昆虫や小動物を食べます。
近年のゲノム解析では、北部と南部で遺伝的に明確な2亜種が分化していることが明らかになりました。森林破壊や外来捕食者による影響が深刻ですが、保護活動も進められています。
ニホンヤマネ

出典:Wikipedia『ヤマネ』
- 和名:ニホンヤマネ
- 学名:Glirulus japonicus
- 分類:ヤマネ科・ヤマネ属
- 分布地:本州、四国、九州、隠岐島後(日本固有種)
- 保護状況:準絶滅危惧(NT)【環境省】
ニホンヤマネは、日本固有の小型哺乳類で、ヤマネ属唯一の現生種です。分類上、ヤマネ科には他にも属(Glis, Muscardinusなど)が存在するため「一科一属一種」ではありません。

出典:Wikipedia『ヤマネ』
ヤマネは夜行性・樹上性で、枝の裏側を高速で走ることができます。主食は昆虫で、果実や花の蜜など多様なものを食べ、丸まって眠る姿から「マリネズミ」とも呼ばれます。

敵から逃げるために、トカゲのように尻尾を自切することも知られています。(トカゲのように再生はしませんが…)
ニホンヤマネの最も興味深い生態の一つが、約半年にも及ぶ冬眠です。彼らは体温をほぼ0℃近くまで下げ、仮死状態で冬を越します。しかし近年、地球温暖化による積雪量の減少や冬期の気温上昇が、ヤマネの安定した冬眠を妨げる可能性が指摘されています。

「凍るギリギリになったら目覚める」という機能も持っているそうです。かなりギリギリの体温まで下げるということですね!
冬眠中に不必要に目覚めてしまうと、余分なエネルギーを消耗し、春まで生き延びられない危険性が高まるため、気候変動がこの小さな固有種の生存に与える影響が懸念されています。
哺乳類の「一科一族一種」はとても希少!

この記事のリサーチ、かなり大変でした…。
哺乳類の「一科一属一種」は、地球上でも極めて希少な存在です。これらは、科・属・種のすべてが単一であり、進化の過程で独自の道を歩んできました。
そのため、彼らは生物多様性の中でも特別な位置を占め、進化の歴史を紐解く重要な鍵となります。しかし、その希少性ゆえに多くの「一科一属一種」の哺乳類が絶滅の危機に瀕しているのが現状です。
ツチブタやカモノハシのように比較的安定した種も存在しますが、これらの哺乳類の多くは、生息地の破壊や密猟、気候変動などの影響を受けやすく、保護活動が急務となっています。
ただ「珍しい動物がいる」という知識を得るだけでなく、生命の多様性がいかに豊かで、生態系のバランスがとても繊細であることが、感じて頂けたら幸いです。

この記事は至らない部分もある可能性があるため、随時修正・改善予定です!

参考
福井県立恐竜博物館『福井県大野市から発見された日本最古級の哺乳類化石と哺乳類型爬虫類の新たな化石について』
Wikipedia『Names for the human species』
Spaceship Earth『絶滅危惧種とは?日本の有名な動物とレベル別レッドリスト一覧を紹介!絶滅の原因と対策についても解説』(2025年6月)