このブログのタイトル「eco-life-plenet」の「eco」の部分。「エコロジー」だと思っていませんか?

それは完全な正解ではありません。サブタイトルに「循環−生命−地球 そして生活」とあるように、本当は「エコシステム(生態系)」=「命の循環」と言う意味を込めています。

細かいことは気にせず、楽しんで読んでいただければいいのですけど、1回ぐらい言っておこうと…

今日は、そんな命の循環を支える「水の循環」について考えてみましょう。水の循環はとても壮大で、知っておくときっと水の大切さがわかると思います。

ダイナミック!地球の水循環

【Diagram of the Water Cycle】
出典:Wikipedia『Water cycle』

毎日何気なく使っている水が、実は壮大な地球規模の旅を続けていることをご存知でしょうか。水循環とは、太陽エネルギーを主因として引き起こされる、地球における継続的な水の循環のことです。

水が蒸発、降下、流下又は浸透により、海域等に至る過程で、地表水又は地下水として河川の流域を中心に循環する、この惑星の生命を支える根幹システムなのです。

どこかで新たな水が生成されるのではなく、地表や河川・海洋から蒸発した水が再び降ってくることをグルグル繰り返しているイメージですね

水は雲となって世界中を旅し、雨となって森を潤し、川を流れ、海へと還っていく無限の循環の中にあります。今あなたが飲んでいる一滴の水は、数千年前に恐竜が飲んだ水かもしれません。

奇跡的なバランスで成り立つ水の世界

地球は「水の惑星」と呼ばれますが、私たちが利用できる淡水は驚くほど限られています。地球上の水の総量は14億立方キロメートルと推定されており、その内訳は海水などの塩水が97.47%、淡水が2.53%という割合です。

さらに驚くべきことに、人が容易に利用できる河川や湖沼等の水として存在する淡水は、地球上に存在する水の量のわずか0.008%、およそ1万分の1にしかすぎません。

【人間が生活に利用できる水の割合】
出典:内閣官房『水循環とは!?』

この極めて限られた貴重な淡水が、水循環という自然の仕組みによって絶えず再生され続けているからこそ、地球上のあらゆる生命が存在できているのです。

絶えることのない循環の力

地球上の水は、海水や河川の水として常に同じ場所に留まっているのではありません。太陽のエネルギーによって海水や地表面の水が蒸発し、上空で雲になり、やがて雨や雪になって地表面に降り、それが次第に集まり川となって海に至るというように、絶えず循環しています。

【地球の水は、太古の昔から循環し、その総量はほとんど変わっていない】
出典:政府広報オンライン『飲み水はどこから?使った水はどこへ? 暮らしを支える「水の循環」』(2024年7月)

この水循環によって塩分を含む海水も蒸発する際に淡水化され、私たちが利用可能な淡水資源が作り出されます。持続的に使うことができる水の量は、ある瞬間に河川や湖沼等の水として存在する淡水の量ではなく、絶えず「循環する水」の一部なのです。

生命と文明を支える基盤システム

水循環は単なる気象現象ではありません。人の活動および環境保全に果たす水の機能が適切に保たれた「健全な水循環」は、地球上の生命の循環をはじめ、私たちの生活の安定に欠かせない基盤です。

近年、都市部への人口の集中、産業構造の変化、地球温暖化に伴う気候変動などの様々な要因が水循環に変化を生じさせ、渇水、洪水、水質汚濁、生態系への影響等、様々な問題が顕著になってきており、健全な水循環を維持または回復していくことの重要性が認識されています。

このダイナミックな水循環の仕組みを詳しく理解することで、私たちの暮らしと水との関係がより深く見えてきます。次に、この壮大な循環システムがどのように機能しているのか、そのメカニズムを探ってみましょう。

精密なメカニズム!水循環の驚異的システム

地球規模で展開される水循環の壮大さに圧倒された後は、その精密なメカニズムに目を向けてみましょう。最新の科学技術により、これまで見えなかった水循環の詳細な仕組みが明らかになり、その複雑さと美しさに研究者たちも驚嘆しています。太陽エネルギーを原動力とした自然界の完璧なシステムが、どのように機能しているのかを探ってみましょう。

蒸発から降水まで:水の状態変化が生み出す奇跡

【水循環のモデル】
出典:Wikipedia『水循環』

水循環の基本的な流れは、太陽エネルギーによって海水や地表面の水が蒸発し、上空で雲になり、やがて雨や雪になって地表面に降下し、それが川となりあるいは地下水となって海にもどるという絶えざる循環です。

この一見シンプルに見える過程の中で、実は驚くほど精密なメカニズムが働いています。

蒸発の段階では、太陽の熱によって海洋、湖、川などの水が温められ、水蒸気として空気中に拡散します。同時に、植物からの蒸散も重要な役割を果たし、葉っぱなどから水分が蒸発して雲の形成に寄与しています。

上空で冷却された水蒸気は凝結して水滴となり、雲を形成します。この水滴が集まって一定の大きさになると、重力の影響で地表に降り始め、雨、雪、霰、霧などの形で地表に戻ってきます。降水は地表の植物や動物の生存に不可欠な水分を提供し、生態系全体を支える基盤となっています。

太陽活動が水循環に与える驚きの影響

最新の研究により、水循環が私たちの想像以上に複雑で動的なシステムであることが明らかになってきました。京都大学の2025年の研究では、11年周期の太陽サイクルに合わせて、海と陸の間で水が動いていることが発見されました。

①太陽活動が活発なときは海洋からの水蒸気が陸域に供給される量が少なく、貯水量が減少。②その影響から海面水位が上昇。③反対に太陽活動が穏やかなときは海洋から水蒸気が陸域に多く供給され、陸域の貯水量が増える。④陸域に貯水された分、海面水位が下降。…という意味ですね!

この研究では、約160年間の歴史的データセットを用いて、太陽活動の変化と水の移動の関係を調べたところ、エルニーニョ南方振動(ENSO)の振る舞いが太陽活動の活発さに依存しており、その結果降水パターンに変動がもたらされ、陸上の水分貯蔵量に影響を与えることが確認されました。

エルニーニョ南方振動(ENSO)

太平洋赤道域で起こる海水温と大気圧の変動現象。通常時より海水温が高くなる「エルニーニョ」と低くなる「ラニーニャ」が 2〜7 年周期で発生し、世界各地の気候に大きな影響を与える。エルニーニョ時には日本で冷夏・暖冬、ラニーニャ時には猛暑・厳冬になりやすい。ENSOは独自の2〜7年周期を持ちながら、同時に太陽の11年周期による「調整」を受けているという、二重の周期性を持つ複雑なシステム。

「エルニーニョ」「ラニーニャ」の発生には、太陽活動の周期以外の要因も影響するので、「2〜7年周期」という幅の広い周期になっています。

これにより、太陽活動の周期変動が地球の水循環に明確な影響を与えていることが理解され、海面変動のメカニズムに新たな視点が加わりました。この発見は、水循環が単なる地球内部のシステムではなく、宇宙規模の影響を受けている壮大なシステムであることを示しています。

11年で繰り返す太陽周期とは?

太陽の内部では、太陽流によって誘導される複雑な磁場の変化が起こり、これが約11年ごとに太陽の磁極を反転させます。この周期では、太陽黒点の数が約11年で増減を繰り返し、黒点数が最も多い「極大期」と最も少ない「極小期」を交互に迎えます。

【図1B 太陽の内部構造と黒点の模式図】
出典:理化学研究所『「京」の中で太陽黒点の11年周期が見えてきた』

極大期には太陽フレアやコロナ質量放出などの爆発現象が頻発し、極小期にはこれらの現象が減少する代わりにコロナホールの出現が多くなります。ただし、黒点の多い極大期と少ない極小期で太陽の光の放射量は0.1%しか変動しないため、寒冷化との因果関係は完全には解明されていません。

1610年にガリレオが望遠鏡で黒点の観察を始めて以来、400年以上にわたって人類はこの現象を観察してきましたが、なぜ11年の周期なのか、そのメカニズムは完全には解明されていません。

水同位体が明かす水の履歴と最先端技術

水循環の詳細な変動をモニタリングする上で革命的な技術として注目されているのが、「水の安定同位体」を活用した研究です。水同位体※は自然界に存在する重い水のことで、水全体に占めるその割合(水同位体比)は、水循環の中で変化してきた履歴を保持しています。

水同位体

普通の水より重い水素や酸素を含む水分子のこと。蒸発や降水の過程で重い水と軽い水の割合が変化するため、水がどこから来てどのような経路をたどったかを追跡できる「水の指紋」として機能する。国立環境研究所では 1961 年から世界規模で降水同位体のモニタリングを実施し、水循環研究や気候変動予測に活用している。

軽い水分子は蒸発しやすく、重い水分子は凝結(雲になる)しやすいという性質があります。そのため、海から蒸発した水蒸気が雲になって雨を降らせる過程で、重い水分子は先に雨として落ち、軽い水分子は空に残り続けるため、降る場所や時期によって水の「重さの割合」が変わってくるのです。これにより、その水がどこから来てどのような旅をしてきたかがわかるようになります。

この調査方法のメカニズムはかなりマニアックですが、一応概念図を貼っておきます。

国立環境研究所では、湿潤大気の対流を表現できる水同位体・全球高解像度大気モデル(NICAM-WISO)を開発し、これまでの水平解像度を遥かに超える現在気候の再現シミュレーションを実施しました。

このモデルは水同位体比の地理的な分布だけでなく、水同位体比と降水量や気温といった気象学的な関係性もシミュレートすることができています。水分子を構成する水素・酸素の安定同位体をトレーサー(追跡子)として用いる手法により、降雨流出・地下水流動・蒸発散・大気水循環などの各過程について、水の起源・流動経路・滞留時間などの情報が実測値にもとづいて得られるようになっています。

つまり、先程のマニアックな図にあるシステムによって違いが生じる「重さの違う水」の分布を、かなりの精度で計測できるシステムが開発されたということです。

しかし、この精密な水循環システムも、現代社会が抱える様々な課題によって脅威にさらされています。

水循環に危機?ゆらぐバランス

水循環システムは、現代社会の急激な変化によって深刻な脅威にさらされています。気候変動、人口増加、産業活動の拡大など、複数の要因が複雑に絡み合い、地球規模で水循環に変化を生じさせています。

気候変動が引き起こす水循環の激変

地球温暖化は水循環のバランスを根本的に変化させており、その影響は世界各地で顕著に現れています。過去100年間で地球の表面温度は0.74℃上昇し、このうち1971年から2000年の30年間だけで0.6℃も上昇しました。

この温度上昇により、海水の蒸発がより活発になり、空気中に含まれる水蒸気量が増加しています。その結果、もともと雨の多い地域では降水量や川の流量が増加し、巨大なサイクロン、洪水、高潮などが頻繁に発生するようになりました。一方で、乾燥地域では蒸発がより活発になることで水不足が深刻化し、干ばつが起こりやすくなっています。

特に深刻なのは氷河の急速な融解です。2025年の「世界水の日」のテーマが「氷河の保護」に設定されたことからも、その緊急性がうかがえます。氷河は地球の淡水の約70%を蓄える最大の淡水貯蔵庫で、約20億人がその水に依存していますが、近年の温暖化により急速に縮小しており、洪水や水不足、国際的な緊張を引き起こしています。

【北極の海氷域面積最大値の経年変化(1990〜2025年)】
出典:JAXA『2025年2月 地球上の海氷域面積が衛星観測史上最小値を記録』(2025年5月)

水質汚染による循環システムの破綻

人間の活動による水質汚染は、水循環のシステム全体の質を深刻に劣化させています。産業廃棄物、家庭廃棄物、農薬、大気汚染物質などの有害物質が水と接触すると、水循環の各段階で水の質を劣化させるだけでなく、水の蒸発、降水、浸透、流出といった自然な循環プロセスに影響を与え、水循環のサイクル全体のバランスを崩す原因となります。

水質汚染により水中の生物多様性が損なわれると、自然の生態系による水の浄化機能が低下し、地下水の再生や河川の流れにも悪影響を及ぼします。

現在、世界では毎年2億5,000万人以上の人が水質汚染による病気で苦しんでいます。特に途上国では、都市部を除いたほとんどの場所で水道施設や浄水施設が整備されておらず、人々は泥や細菌、動物の糞尿が混ざった水を飲まざるを得ない状況にあります。

【メコン川のカワゴンドウ】

IUCNのレッドリストでは、メコン川、エーヤワディー川(ミャンマー)、マハカム川(ボルネオ島)、マランパヤ海峡(フィリピン)、ソンクラー湖(タイ)のカワゴンドウは「絶滅寸前」の種に指定されている。
出典:Wikipedia『カワゴンドウ』

水質汚染は生態系にも深刻な影響を与えており、絶滅危惧種に指定されているカンボジア・メコン川の川イルカからは殺虫剤や水銀などの有毒化学物質が検出され、2009年時点で個体数はわずか70体前後まで減少しています。また、農業や化石燃料の使用から生まれる窒素やリンが大量に海に流れ込むことで富栄養化が進み、藻類の大量発生や貧酸素水塊を作り出し、漁業にも多大な損失を与えています。

水災害と水不足の頻発化

地球温暖化に伴い、水害、土砂災害、高潮災害等がさらに頻発・激甚化することが指摘されています。近年渇水も頻発しており、将来的には無降水日の増加なども懸念され、さらなる危機的な渇水により都市機能の麻痺や社会経済活動に大きな影響を与える可能性があります。

2080年代には10億人以上が水不足になる可能性があり、地中海地域とアフリカ南部では水の流量が30%以上減少すると予測されています。また、平均気温上昇が4℃を超え始めると、海面上昇が世界の大都市を脅かし始め、ロンドンや上海、ニューヨーク、香港、そして東京にも影響が出ると考えられています。

【アラル海の衛星画像(1988年、2003年、2023年の観測)】
出典:JAXA『アラル海の消滅』

上のアラル海の消滅は、1960年代にソビエト連邦が実施した大規模な灌漑計画により、アラル海に流入するアムダリヤ川とシルダリヤ川の水を、綿花栽培のために大量に引き抜いたことが原因です。その結果、アラル海への流入水量が蒸発水量を大幅に下回り、水位が急激に低下して塩分濃度が上昇し、生態系が破壊されて湖が砂漠化しました。

ヨーロッパでは2013年の大洪水で約1.7兆円の損害が出ており、このレベルの洪水の頻度が2050年までに1.5倍になるとの予測もあります。これらの変化は現在の子供たちが成人する頃に現実のものとなる可能性が高く、早急な対策が必要です。

同じ日常も、知ることでより豊かに

【人間活動を統合した地球規模の水循環図】
出典:Wikipedia『Water cycle』

ここまで読破できたあなたなら、きっと水を大切にしてくださいますね!

水循環についての知識を深めることは、私たちの生活を支える自然の仕組みを理解し、その大切さを実感する第一歩です。日々の暮らしの中で当たり前のように使っている水が、実は地球規模の壮大な循環の一部であり、その循環があってこそ私たちは潤いある生活を送ることができています。

このような事実を知ることで、水資源の有限性や環境保全の必要性をより深く認識し、日常の節水や自然環境への配慮が自然と心に根付くでしょう。蛇口をひねれば清潔な水が出てくる当たり前の光景も、実は太陽エネルギーによる蒸発、雲の形成、降水、そして森林や土壌による自然の浄化、さらには上下水インフラを含む複雑なプロセスの賜物なのです。

水循環は、私たちが地球という大きなエコシステムの一員であることを実感させ、より意識的で思いやりのある生活へと導いてくれます。

私たち人間も含めた、地球の生き物全ても水循環の一部です。(体内に摂取したり、排出したり、農業したり…)

水の循環という大きな自然の営みを思いながら、今日という日を大切に過ごしていただければと思います。

参考

国土交通省『水循環基本法 水循環基本計画』

内閣官房『水循環とは!?』

水循環保全学会『「水循環」とは』

政府広報オンライン『飲み水はどこから?使った水はどこへ? 暮らしを支える「水の循環」』(2024年7月)

田瀬則雄『水循環再考』(2018年)

首相官邸『流域マネジメントの事例集』

国立環境研究所『大気の水循環を追跡する高解像度シミュレーション—次世代の水同位体・大気大循環モデルの開発—』(2023年12月)

京都大学『太陽活動とシンクロする海面高度変動―11年周期の太陽サイクルに合わせて、海と陸の間で水が動いていた―』(2025年5月)

国土技術政策総合研究所『水循環研究室 流域治水デジタルテストベッドWEBページ』

日本水環境学会『水環境企業・研究機関情報』(2025年1月)

JAXA『衛星観測と数値シミュレーションの融合で陸面水循環の姿を”確率的”に再現~全球アンサンブル水循環シミュレーション「TE-Global NEXRA」を公開しました~』(2023年8月)

首相官邸『水循環を巡る現状と課題について』

JAXA『2025年2月 地球上の海氷域面積が衛星観測史上最小値を記録』(2025年5月)

MDPI『Characterizing Water Pollution Potential in Life Cycle Impact Assessment Based on Bacterial Growth and Water Quality Models』(2018年10月)

IEI『Major Effects of Water Pollution on Ecosystems』(2025年5月)

MDPI『Screening Life Cycle Environmental Impacts and Assessing Economic Performance of Floating Wetlands for Marine Water Pollution Control』(2021年9月)

Metro Connects『The Water Cycle: Everything is Interconnected』(2023年1月)

名古屋大学『36.宇宙天気が11年で繰り返すのはなぜ?』

理化学研究所『「京」の中で太陽黒点の11年周期が見えてきた』(2017年1月)

東京大学『地球水循環研究への水安定同位体比の利用』(2011年11月)