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【分類学入門①】なぜ猫はFelis catus?学名の仕組みとルール

2026 1/04
分類学 文化
2025年12月28日2026年1月4日

分類学の父・リンネが300年前に創案した「二名法」は、国や文化の違いを超え、すべての生物を公平につなぐ「学名」の基礎です。

例えば、なぜ猫の学名は Felis catus なのか?その仕組みとルールが理解できれば、自然界への理解と敬意がより深まることでしょう。知ることで世界の見え方が変わる、豊かな知の旅へご案内します。

筆者の所属する研究室のタヌ山先生は分類学者です。この記事からは、アドバイス貰おうかなと思います。

農学博士、分類学者のタヌ山です!

タヌ山先生は気まぐれなので、もしものときはいつも親身にご指導してくださるフクロウ博士に伺います。

いつでもどうぞ!

ぼく忙しいだけですよ!

それはそうですけど(気分屋ですよね?)

目次

言葉の壁を越える魔法:リンネが作った「学名」の世界

※Geminiより生成

学名(Scientific Name)とは、生物につけられた世界共通の名称です。私たちが普段使う日本語や英語の名前とは異なり、ラテン語を用いて一つの生物種に対して必ず一つだけ定められます。

これは、国籍や言語が異なる人々が、誤解なく同じ生き物について語り合うための、科学における「共通言語」なのです。

では、なぜこのような厳格な名前が必要になったのでしょうか?その歴史と仕組みを紐解いていきましょう。

国や地域で異なる呼び名が招く混乱

私たちが育った文化や地域で使う生き物の名前は、千差万別です。身近な例として、同じネコでも日本語で「ネコ(猫)」、英語で「cat」、フランス語で「chat」と呼ばれます。

こうした多様な呼び方は文化の豊かさを示していますが、科学の世界では大きな問題となります。

さらには、同じ生き物であっても、地方によって全く異なる呼び名で呼ばれることもあります。例えば、ある魚が「メバル」と呼ばれる地域もあれば、「カスゴ」と呼ぶ地域もあり、「アカメ」と呼ぶところもあります。

一方で、「スズキ」という名前が複数の異なる種を指すこともあります。この曖昧さは、研究成果を世界中で共有するときに致命的な混乱を招くのです。遠く離れた研究者が、本当に同じ生き物について議論しているのか、確認することさえ難しくなってしまいます。

科学が進歩するには、どの言語にも属さない、誰が読んでも同じ対象を指す、中立で揺るぎない共通の「名前」と「住所録」が必要だったのです。

混乱を避け、効率的に世界中の学者たちが研究を進めるにあたって、どこの国の人が見ても、その生き物とわかる共通の名前がどうしても必要なのです!

でないと、同じ生き物が別の生き物として「新種記載」されてしまったり、すでに解明されている情報を共有できなかったり、非効率的なことが起こってしましますね…

研究者にとって、自分の生きられる時間は短すぎますから、できる限り、効率的に作業を進めたいものです。

分類学の父・リンネ:「二名法」の発明

【分類学の父、カール・フォン・リンネ(Carl von Linné )】
出典:WIKIMEDIA COMMONS – Carl von Linné (スウェーデン国立美術館)

18世紀に活躍したスウェーデンの博物学者カール・フォン・リンネ(Carl von Linné)は、生物の命名法に劇的な進化をもたらしました。1758年に出版した著書『自然の体系(Systema Naturae)』第10版においてリンネが確立したのは、生物を「属名(ぞくめい)」と「種小名(しゅしょうめい)」の2語の組み合わせで表現する「二名法」※というシステムです。

それ以前の博物学では、ある生物の特徴を文章でぎっしり説明し、その説明文がそのまま名前として扱われていました。例えば「胸部が赤い小さな鳥」というように、数十文字を費やして説明する必要があったのです。

二名法(学名)🏷️

二名法(にめいほう)とは、スウェーデンの学者リンネが確立した、世界中の生き物に共通の名前(学名)を付けるための国際的なルールです。人間の「名字」にあたる属名と、「名前」のような種小名の2つのラテン語を組み合わせて、一つの種を表します。

例えば、私たちヒトの学名は Homo sapiens です。表記は斜体(イタリック体)にするのが決まりで、命名法は動物、植物などでそれぞれ国際規約によって厳格に管理されています。このおかげで、国や言語が違っても、世界中の誰もが同じ一つの種について正確に情報を交換できるのです。

【フクイラプトル・キタダニエンシス】
出典:福井県立恐竜博物館 ‐ フクイラプトル・キタダニエンシス
【フクイラプトルの場合】
出典:福井県立恐竜博物館 ‐ 学名はどうやって決めるの?

フクイラプトルの学名「Fukuiraptor kitadaniensis」は、まさに二名法の仕組みをよく表す例です。これは「福井の略奪者(泥棒)」を意味する属名 Fukuiraptor と、化石が見つかった地名「北谷(きただに)」に、ラテン語で「~産の」を意味する -ensis を付けた種小名 kitadaniensis を組み合わせたものです。

学名の部分(属以下)は斜体(イタリック)で書きます。

リンネが「二名法」を確立する以前の学名は、多名法(ためいほう)または記述的命名法と呼ばれる、長いラテン語の文章で生物の特徴を説明する形式でした。

現在、リンネ式二名法によるヒロハフウリンホオズキの学名は、Physalis angulata と呼ばれます。しかしリンネ以前は、例えば以下のような長い名前で呼ばれていました。

Physalis annua ramosissima, ramis angulosis glabris, foliis dentato-serratis

これは「一年生で非常によく枝分かれし、枝は角ばって無毛で、葉は歯状鋸歯縁を持つホオズキ」という意味の、名前というより「植物の特徴を説明した文章」そのものでした。

記述的命名法が抱えていた問題点

上の例からも分かるように、リンネ以前の命名法には、学問の発展を妨げるほどの大きな問題点がいくつもありました。

まず、名前が冗長で非常に覚えにくく、論文や標本のラベルに使うにも非実用的でした。さらに、どの特徴を記述に含めるかという統一された基準がなかったため、研究者ごとに同じ生物に対して異なる名前を付けてしまい、大きな混乱を招いていたのです。

最も深刻だったのは、新しい種が見つかるたびに、既存の種の名前まで変えなければならない点でした。名前が「他の種と区別するための説明文」であるため、似た種が発見されると、区別点を加えるために名前をさらに長くする必要があったのです。これでは学名が際限なく長くなり、システムとして破綻していました。

リンネの「属名+種小名」という、まるで「姓と名」のようなシンプルな二名法は、これらの問題を一挙に解決しました。この簡潔で安定したシステムは、現在まで280年以上にわたって生物学の根幹を支える、まさに革命的な発明だったのです。

Wikipedia ‐ 学名

リンネはこの複雑さに着目し、わずか2語で生き物を一意に特定する方法を創案したのです。「Felis catus」という2語で、世界中どこの学者にもネコとわかる…。このシンプルさと明快さが革新的だったのです。

学名を表記するとき、属名と種名は斜体(イタリック)で書きます。「…の一種」を表す「sp.」などは斜体にしません。

この発明により、膨大種類の生命を整然と整理する基礎的な秩序ができ、現代へと続く分類学の扉が開かれました。リンネは自らの分類体系を生涯かけて改良し続け、その影響は今も色褪せることなく、世界中の生物学者に引き継がれています。

国際ルールで守られる命名の秩序

学名は、発見者が自由勝手に付けてよいわけではなく、厳格な国際ルールによってその秩序が保たれています。動物には「国際動物命名規約(ICZN)」、植物・藻類・菌類には「国際藻類・菌類・植物命名規約(ICN)」といったルールブックが存在し、専門の国際委員会が管理を行っています。

これらの規約で最も重要な原則が二つあります。

  1. 「先取権(せんしゅけん)の原則」
    一つの種に複数の名前が付けられた場合、最も早く正しく発表された名前だけが有効とされるルール
  2. 「一基準一名称」
    一つの種には国際的に認められた学名が一つだけに限定されること

こうした厳格な運用があるからこそ、数百年前に名付けられた生き物の情報を、現代の研究者が誤解なく参照できるのです。

分類学のスタートラインはこちら👇️

分類学【超入門編】意味・基礎・身近な例を初心者向けにやさしく解説

リンネ先生の効率化を追求した「二名法」のおかげで、世界中の研究者が、余計な混乱を大幅に回避できるようになりました。素晴らしい功績ですね!!

学名の構造と書き方:Felis catus を解剖する

※perplexityより生成

学名は、その生物がどのような仲間(グループ)に属し、どのような個性を持っているのかを、わずか数語に凝縮して表現した精密な情報パッケージです。基本となる「属名(ぞくめい)」と「種小名(しゅしょうめい)」の組み合わせに、表記上の細かなルールを加えることで、言葉の壁を越えて誰にでも正確な情報を届けることが可能になります。

では、猫の学名である Felis catus(フェリス・カトゥス)を例に、その無駄のない構造とルールを解剖していきましょう。

「属名」と「種小名」は、苗字と名前の関係

学名の基本構造である二名法は、人間でいうところの「名字(姓)」と「名前(名)」に例えると非常に理解しやすくなります。最初の単語である「属名」は、近い特徴を持つ仲間をひとまとめにした名字のようなもので、ネコの場合は「ネコ属(Felis )」を指します。続く2番目の単語は「種小名」と呼ばれ、そのグループの中で特定の種を識別するための、いわば個人の名前に当たります。

【イエネコの原種とされるリビアヤマネコ(Felis lybica )】
出典:WIKIMEDIA COMMONS – AfricanWildCat

イエネコを表す catus はラテン語で「賢い」「猫の」といった意味を持ち、これを組み合わせることで「ネコ属の、イエネコ」という唯一無二の存在を定義しています。ライオンは Panthera leo、トラは Panthera tigris と、同じ Panthera(ヒョウ属)という大きなグループに属しながらも、最後の単語(種小名)が異なることで区別されます。

このように、大きな括りから小さな個性へと絞り込むことで、膨大な数の生物を重複なく、かつ親戚関係を意識しながら整理できるのがこの構造の優れた点なのです。

斜体・大文字・小文字:表記ルールの意味

学名を記述する際には、一目でそれが「学名である」と分かるように、フォントや文字の種類を使い分ける厳格な決まりがあります。最も特徴的なのは、周囲の文章が標準的なフォント(正体)であっても、学名は必ず斜体(イタリック体)で書くという点です。

これは、ラテン語という特別な「科学の共通言語」であることを強調し、地の文と明確に区別するための工夫といえるでしょう。

また、文字の使い分けにも注意が必要です。最初の「属名」は常に大文字から書き始め、続く「種小名」はすべて小文字で綴ります。

例えば、Felis catus と書くのが正解であり、すべて大文字にしたり、種小名を大文字にしたりすることはありません。この視覚的な一貫性があるからこそ、多言語で書かれた論文の中でも、私たちは迷うことなく学名を見つけ出し、その情報を正しく受け取ることができるのです。

これについてはタヌ山先生もフクロウ先生も「厳守」を徹底されています。筆者がうっかり表記を間違えると、必ず指摘され、訂正します。

そんなの間違えてるの、カッコ悪いじゃないですか!

←うっかり「sp.」などを斜体にしがち(カッコ悪い)

学名に「亜種」や「変種」が出てきたらどうする?

【アメリカワシミミズク (Bubo virginianus )】
出典:iNaturalist – アメリカワシミミズク Bubo virginianus (wildreturn)

同じ種の中であっても、地域による形態的な違いや、人間の手による改良を記録したい場合があります。こうした際には、基本の「属名+種小名」に3番目の単語を書き加える「三名法(さんめいほう)」が用いられます。

亜種(subspecies)※の場合、地域による小さな違いを示すために3つ目の単語を加えます。例えば、アメリカワシミミズク(フクロウの一種)は地域によって 

  • Bubo virginianus virginianus(東部)
  •  Bubo virginianus subarcticus(北部)

と異なる亜種名が付けられます。二名法では「この属のこの種」を示していましたが、三名法では「この属のこの種の、この地域の個体群」という更に細かい情報が加わるのです。

亜種名は種小名に続いて、小文字・斜体で表記します。「subsp.」「ssp.」は「〜の亜種」という意味の略称です。こちらは斜体にしません。

亜種(subspecies)🧬🌿

生物分類における「亜種」とは、同じ種に属しながらも、生息する地域や環境の違いによって、色や形、生態に明確な差が生じた集団のことです。これらは全くの別種ではなく、互いに行き来があれば自然に交配し、子孫を残すことができる非常に近い関係にあります。

学名を記述する際は、基本となる「属名+種小名」の後に3語目(亜種名)を加える「三名法」というルールで表記されます。例えば、イエネコはFelis catus catus、またはシンプルにFelis catusと表記されますが、アフリカヤマネコの野生個体はFelis lybica lybicaのように区別されることもあります。

亜種は「subsp.」「ssp.」と略されることがあります。
「sp.」は、「〜属の一種」という意味の略記です。

近年では、外見だけでなくDNA解析による遺伝的な距離も重視され、亜種を独立した種へ格上げするかどうかの判断が、科学的な視点から慎重に行われています。また、気候変動や生息地の変化に伴い、かつて「亜種」と見なされていた個体群が新たに「独立種」として昇格することもあり、分類学は常に進化し続けています。

亜種と「シノニム」は異なる概念です。 亜種は「同じ種の中の地域的バリエーション」で交配可能な関係ですが、シノニム(同物異名)は「同じ生き物に付いた別の学名」です。

例えば、イエネコは以前Felis domesticus とも呼ばれていましたが、これは無効な別の学名(シノニム)であり、現在はFelis catus だけが公式な学名として認められています。この違いを理解することで、学名の体系と分類学の論理がより明確に見えてきます。

参考・引用

International Commission on Zoological Nomenclature (ICZN) ‐ The Code Online (Article 45: Species-group names)
Smithsonian Institution ‐ Encyclopedia of Life
Wikipedia ‐ 亜種
Wikipedia ‐ シノニム

栽培品種の場合は異なるルールが適用されます。園芸店で見かけるバラやトマトなど、人間が改良した品種は、斜体ではなく普通のフォントで、シングルクォーテーション(’ ‘)で囲んで表記します。

例えば、有名なバラの品種なら「Rosa ‘Peace’(バラ属のピース)」と表記されます。こうした細かな記号の使い分けによって、その生き物が自然界で進化したものなのか、人間の手によって作られたものなのかを瞬時に判別できる仕組みになっているのです。

記載者名と年号:学名に秘められた「発見の物語」

専門的な図鑑や研究資料では、学名の直後に「Linnaeus, 1758」のような人名と年号が添えられていることがあります。これは、その学名を初めて正式に発表した人物(記載者)と、その発表年を示すデータです。

例えばネコの場合、公式には Felis catus Linnaeus, 1758 と記されます。常に書かれるわけではありませんが、この情報は学名の「履歴書」のような役割を果たしています。

「L.」や「Linnaeus」は「分類学の父」と呼ばれるリンネを示しており、彼自身によって命名された由緒ある名前であることがわかります。

もし、記載者名が括弧で囲まれていたら、そこには「引っ越しの歴史」があるということです。
例えばライオンの学名を見てみましょう。

Panthera leo (Linnaeus, 1758)

このように、人名と年号が ( ) で囲まれています。これは、「リンネが最初に名付けたときは別の属(Felis 属)だったが、その後の研究で現在の属(Panthera属)に移された」ことを意味します。

この括弧の有無を見るだけで、その生き物が分類学的にどのような変遷を辿ったのか、研究の歴史を垣間見ることができるのです。

学名にたくさん出会うには博物館!博物学についてはこちら👇️

はじめての博物学:基礎・専門分野・博物館の仕事をやさしく解説

学名を命名するときの基本的なルール

※perplexityより生成

新種を発見したからといって、すぐに好きな名前で呼べるわけではありません。学名は世界中の研究者が参照する共通のデータとなるため、その登録には「客観的な証拠」と「公式な手続き」が求められます。

これは、何百年後の未来に生きる研究者が、現代の発見を正しく検証できるようにするための、科学者たちの知恵の結晶なのです。具体的にどのようなステップを踏んで、一つの名前が歴史に刻まれるのか確認してみましょう。

ラテン語風の表記と普遍的な意味

学名は、現代の日常会話では使われない「ラテン語」の形式で書かれます。これには、特定の国や言語に有利にならないよう中立を保ち、時代によって言葉の意味が変化しないようにするという、科学上の深い配慮があります。

ラテン語には名詞の性(男性・女性・中性)や格変化といった文法ルールがありますが、この「普遍的な言葉」を使う約束事があるからこそ、文化や国境を越えて、世界中の人々が同じ一つの生き物を指し示すことが可能になっているのです。

一見すると難解に思えるかもしれませんが、それは500年以上前に人類が決めた「統一言語」として、今も機能し続けています。

新種と認められるための公式な手続き

ある生物が「新種」として認められるには、過去に命名されたどの種とも別種であることを科学的に証明しなければなりません。具体的には、その種の特徴や、似た仲間(近縁種)との細かな違いを明確に示した「記載論文(きさいろんぶん)」を執筆し、学術雑誌などで発表する必要があります。

新種記載を掲載する世界的学術誌としては、
  Zootaxa
  Phytotaxa
  ZooKeys
  Zoological Journal of the Linnean Society
などが有名です。

この論文が受理され、公に発行されることで、初めてその学名は有効なものとなります。そして、その論文の著者が「命名者(記載者)」として、生物学の歴史にその名を残すことになります。

新種記載は、必ずしも世界的に著名な国際誌に発表する必要はありません。新種記載が国際的に有効であるための、以下のような条件を満たしていれば、信頼ある国内誌でも国際的に有効な学名として認識されます。

  • 英語で記載している:論文がラテン語または英語で記載されていること
  • 審査を受けている:専門家による審査(査読)を通っている
  • 公開出版:学術雑誌や書籍として、図書館やネット上で公に入手可能な形で出版されている

「どこで発表するか」よりも、「どのような形式で、どのような内容で発表するか」のほうが、国際的な有効性を判断する上で重要なのです。アジア地域の生物研究では、日本の研究機関と学術誌が果たす役割は非常に大きく、日本で発表された新種記載論文は、世界中の研究者に参照されています。

論文の書き方は、学生のうちにしっかりと身につけておきましょう。英語・日本語の表現は、
  専門用語はその分野で最も推奨されるされる言葉を優先的に使う
  翻訳されたとき誤訳されにくいように配慮する
など、注意するポイントがいくつかあります。

タヌ山先生は論文の書き方に関しては、かなり細かいところまで指導されていますね!

後から「あの論文のあの箇所は…」とか言われるの、カッコ悪いじゃないですか!

タヌ山先生の論文は理論整然として、無駄がなく、大変素晴らしいですよ。

学生さんへの指導も、とても建設的に説明されています

後進を育てるのも研究者の大事な役割です!

筆者と同僚への指示はいつもミステリー並みに謎解きが必要なのなんでですか…

職員さんたち、いつもそれでわかるじゃないですか

細かい指示が面倒なのか、楽しんでいるのか…

模式標本(タイプ標本):学名の「生きた証拠」

学名のルールにおいて最も重要かつ厳格な決まりが、基準となる「模式標本(もしきひょうほん)」の指定です。学名が指し示す厳密な対象は、実は抽象的な「種全体」ではなく、命名者が論文で指定した「この標本そのもの」に限定されています。

筆者の職場ではだいたい「タイプ標本」と呼ばれています。

博物館や大学などの公的機関で永久保存されるこの標本は、「その生き物の正解の姿」のような存在です。たとえ将来、種の分類が見直されたとしても、この標本こそがその名前の「正解」として機能し続けます。

つまり学名とは、その生き物の抽象的なイメージではなく、「ある研究機関に保管されている、この1体の標本」に紐付けられた、揺るぎない記録なのです。

世界中のどこかで「これは本当にあの種かな?」と疑問が生まれたとき、いつでもこの基準となる標本に立ち返ることができるようになっています。

模式標本(タイプ標本)の種類と役割

模式標本(タイプ標本)は、科学の「証拠」のような存在です。いくつか種類があり、それぞれが異なる役割を持っています。

文脈によっては「タイプ標本」は「ホロタイプ(Holotype:正模式標本) 」のみを指していることもあります。広義の「タイプ標本」には複数の種類が含まれますが、狭義の場合は「ホロタイプ」と心の片隅に覚えておきましょう。

文脈に合わせて柔軟に判断できることも大切ですね

  • ホロタイプ(Holotype:正模式標本) 
    新種を定義する際に基準として指定された唯一の個体です。この標本を見ることで、その学名が指す対象が何かを確定できます。「タイプ標本」といえば、
  • パラタイプ(Paratype:副模式標本) 
    その種が持つ特徴のバリエーション(色の濃淡、大きさの違いなど)を示すために追加で指定された個体たちです。
  • シンタイプ(Syntype:合模式標本) 
    昔の研究では1つの個体を指定しなかったため、複数の個体をまとめて基準としたものです。

これらの標本が失われると、その学名の正確な意味が永遠に分からなくなってしまう恐れがあるため、世界中の博物館や大学で厳重に管理されています。

金庫のような、鍵のかかる厳重な標本庫に保管されるのが一般的です。

「タイプ標本」と呼ばれるものには他にも、
・Neotype(新模式標本)元の標本が失われた場合の代替標本
・Lectotype(選定標本)シンタイプから後に選定された標本
・Epitype(追加模式標本)追加情報を提供する標本
などがあります。

このように、学名を命名するプロセスには、過去への敬意と未来への責任が凝縮されています。きさい

ときどき、標本の整理をしていると、亡くなられた先生が管理を分け忘れたタイプ標本がでてきたりします…

未学名種の表記:まだ名前のない生き物への向き合い方

地球上には、まだ科学的な正式名(学名)が付いていない生物が膨大に存在します。研究の途上で、属までは分かっているものの種名がまだ決まっていない生き物を指すときは、属名の後ろに「sp.」を添えて表記します。

これは「~属の一種」という意味を持つ略記で、「まだ正式な学名がない」ことを示します。例えば Felis sp. と書かれていたら、それは「ネコ属の仲間であることは確実だが、詳しい種は未特定」という意味です。

「sp.」は「species」の略です。ときどき「spp.」という表記もありますが、こちらは複数形(species pluralis の略)で、その属に含まれる「複数の種」をまとめて指すときに使います。

「sp.」「spp.」はどちらも斜体にせず表記します。

名前の自由度と「献名」という敬意

学名の命名において、言葉選びにはある程度の自由が認められています。その生物の特徴を表す言葉だけでなく、発見された地名や、尊敬する人物の名前を織り交ぜた「献名(けんめい)※」も一般的です。

献名🏷️✨

献名(けんめい)とは、科学者が新種を発見した際に、その学名の中に特定の人物の名前を織り込んで敬意を表す伝統です。

  • 研究でお世話になった人
  • 標本を提供してくれた採集者
  • 恩師
  • 尊敬する歴史上の人物

など、感謝や敬意の気持ちを永遠に残すことができる、科学の世界の奥ゆかしい習慣といえるでしょう。

リンネの時代から約270年続くこの伝統には、一つの重要な不文律があります。それは、「自分で自分の名前を学名につけてはいけない」という暗黙のルールです。

これは技術的な問題ではなく、献名が本来「名誉や感謝として他者に贈るもの」であるという精神に基づいています。200年以上の分類学の歴史で何百万種もの生物が記載されてきた中で、ほとんどの研究者がこの慣習を守ってきました。

もし自分の名前を付けてしまうと、まるで自分で書いた感謝状に自分の名前を書くような、少し気恥ずかしいことになってしまうのです。現代でも稀にそのような例が現れると、生物学界では大きな話題となり、多くの研究者が驚くほど珍しい出来事なのです。

自分の名前をつけないは、長く科学者たちに受け継がれてきた美学ともいえるのです。

「献名」の例をいくつかご紹介します。

アインスタイニウム

アルベルト・アインシュタインへの献名:99番元素「アインスタイニウム(Einsteinium)」として、元素の世界で永遠にその名を刻んでいます。1952年に水爆実験の破片から発見され、相対性理論の父への敬意を込めて命名されました。

【アインスタイニウム】
出典:Wikipedia ‐ アインスタイニウム

ダーウィニルス・セダリシ(Darwinilus sedarisi)

チャールズ・ダーウィンへの献名:ダーウィニルス・セダリシ(Darwinilus sedarisi) は、チャールズ・ダーウィンに敬意を表して命名されたハネカクシの一種です。1832年にダーウィンがアルゼンチンで採集した標本に基づき、2014年に新種として記載されました。また、種小名「sedarisi」は作家デヴィッド・セダリスへの献名です。

【ダーウィニルス・セダリシ(Darwinilus sedarisi)】
出典:Wikipedia ‐ ダーウィニルス・セダリシ

Wikipedia ‐ 献名

National Geographic ‐ ダーウィンが採取した甲虫、新種と認定(2014年2月)

日本原子力研究開発機構 ‐ 新しい“核分裂”をアインスタイニウムで発見!

例えばあなたが新しいタヌキを発見して、ぼくに献名してくれるなら「Nyctereutes tanuyamai」みたいな感じです。

ただし、国際命名規約(ICZN/ICN)には厳格な倫理規定があります。他者を侮辱したり差別的であったりする名前は避けなければなりません。

最近では、環境保全に尽力した人物や、社会的に意味のある人物にちなんだ献名も増えており、科学界の多様な価値観が反映されています。このように「敬意」を込めた命名は、科学知識の積み重ねだけでなく、人間関係の営みをも記録しているのです。

ある新種の植物がタヌ山研究室の院生さんに献名されたとき「お祝い会しましょう!」ってタヌ山先生に進言したら「そんなの大した事ないですよ」って一蹴されました…

そんなことでいちいちお祝いパーティーしていたらきりがないですよ!

「自分の名前をつけない」暗黙のルール

学名の命名にまつわる興味深い慣習として、「自分の名前を自分の発見した種に付けない」というものがあります。これは国際規約で厳密に禁止されているわけではありませんが、研究倫理や伝統的なマナーとして広く守られている「暗黙の了解」です。

新種の命名は、発見者の功績を誇示するためのものではなく、客観的な科学の記録であるべきだと考えられているからです。もし発見者の名前を付けたい場合は、第三者の研究者がその功績を讃えて命名するのが望ましいとされています。

研究者たるもの、カッコよくありたいですからね!

(研究室は散らかっていたほうがかっこいいと思っているのかな…)ヒソヒソ

(ありえますね)ヒソヒソ

この奥ゆかしい慣習が、学術的な信頼と品位を保つ一助となっており、「研究者とは、謙虚であること」という姿勢が学名の世界にも反映されているのです。

猫の分類学的「住所」を調べてみよう:分類の階層構造

※Geminiより生成

個別の名前である「学名」が分かったら、次は、その生き物が広い自然界のどこに位置しているのか調べてみましょう。生物学の世界では、地球上のあらゆる生命を大きなグループから順に細かく分けて整理する、ピラミッドのような階層構造が存在します。

この仕組みを理解すると、その生き物が広大な生命のネットワーク「系統樹」の中でどのような「住所」を持ち、誰と親戚なのかを正確に特定できるようになります。

系統樹🌳

系統樹(けいとうじゅ)とは、生き物たちの「家系図」のようなもので、進化の歴史の中で種がどのように分かれてきたのかを樹木のように表した図です。枝の分かれ目が共通の祖先にあたり、枝と枝が近いほど、生物同士が近い親戚関係にあることを示します。

【動物の進化系統樹】
出典:東京薬科大学 ‐ 動物の進化系統樹 山岸 明彦

かつては骨格や見た目の比較が中心でしたが、現在はDNA(遺伝情報)の解析が主流となり、より客観的な関係性を探れるようになりました。この系統樹は生命38億年の壮大な物語を読み解くための地図であり、新しい発見によって今もなお枝葉が更新され続けています。

【分子系統解析の3要素】
出典:松井 求 ‐ 分子系統解析の最前線
【全生物を対象にした系統樹の例】
出典:WIKIMEDIA COMMMONS – Phylogenetic Tree of Life-ja

界から種まで:生物分類の7段階

※perplexityより生成

生物学では、生命を整理整頓するために「界(かい)・門(もん)・綱(こう)・目(もく)・科(か)・属(ぞく)・種(しゅ)」という7つの基本的な階層を用います。これは、手紙を送るときに「国名→都道府県→市区町村→町村→番地」と段階的に住所を書くのと同じ仕組みです。

分類階級一覧表👑
出典:Wikipedia-階級 (生物学)

上位の階層(界や門)ほど、より多くの生物を含む大きなグループで、下位の階層(属や種)に向かうほど、姿形や習性が共通したより近い仲間に絞り込まれていきます。例えば、「動物界」にはあらゆる動物が含まれますが、「ネコ科」となると毛並みや歯の構造が肉食に特化したグループだけが入り、さらに「ネコ属」まで来ると小型の肉食動物という限定的なグループになるわけです。

この仕組みによって、世界中の科学者が「どの種について話しているのか」を共通の認識として持つことができるのです。

Felis catus の分類をたどる旅

では、私たちにとって身近な動物、猫(イエネコ)の「住所」を具体的にたどってみましょう。

最初に所属するのは「動物界(Animalia)」です。次に、背骨を持つ生き物の「脊索動物門(せきさくどうぶつもん Chordata)」、母乳で子を育てる「哺乳綱(ほにゅうこう Mammalia)」と進みます。

さらに、肉食に特化した体を持つ「食肉目(しょくにくもく Carnivora)」、そして「ネコ科(Felidae)」を経て、ついに「ネコ属(Felis )」という家族の玄関に辿り着くのです。

この旅の終着点が、Felis catus という個別の「種」です。

イエネコは「Felis silvestris catus 」という表記がされることがあります。進化の繋がりを重視する研究者は Felis silvestris catus(亜種表記)を好む傾向があり、国際的な統一性と実用性を優先する場面では Felis catus(種表記)が選ばれるようです。

興味深いことに、イエネコは約1万年前に中近東で「アフリカヤマネコ(Felis lybica)」が人間の生活圏に適応することで誕生したと考えられています。つまり、現代の家猫も野生のヤマネコも、系統学的には非常に近い親戚なのです。さらに驚くべきことに、同じ「食肉目」の住所を通る仲間には、アザラシやイタチ、そしてライオンなども含まれています。

住所を一段ずつ確認することで、一見全く異なる生き物たちが、実は深い血縁関係を持つ親戚であることが科学的に見えてくるのです。

タヌ山先生ならイヌ科(Canidae)、タヌキ属(Nyctereutes )の特殊個体といったところですね

日本のタヌキの分類はちょっと議論が分かれていますからね!

…

学名が変わることがあるのはなぜ?科学の進歩と分類の見直し

古い図鑑と新しい図鑑を見比べたとき、同じ生き物なのに学名が変わっていることがあります。実は、分類学は常にアップデートされ続けている科学です。

かつては顕微鏡で観察した骨の形や外見(形態)だけで分類を決めていましたが、1990年代以降、DNA解析※という革新的な技術が急速に発展しました。この「分子系統学」の登場により、目に見えない遺伝情報の細かな違いが明らかになり、これまでの分類体系が根本的に見直されるようになったのです。

DNA解析技術🧬💻

DNA解析技術とは、生物の設計図であるDNAに書かれた遺伝情報を、専用の機械(シーケンサー)を使って読み解く技術のことです。DNAを構成する4種類の塩基(A, T, C, G)の並び順を、超高速かつ大規模に決定します。

【遺伝子とDNA】
出典:国立がん研究センター ‐ 遺伝子検査(解析)

DNA解析の方法(サンガー法)

現代のDNA解析技術の基礎を築いたのが、20世紀に開発された「サンガー法」です。これは、DNAがコピーされていく過程を巧みに利用した方法です。

  1. DNA合成と停止: 解読したいDNAを鋳型にして、酵素反応で1塩基ずつ長さが異なるDNA断片を作ります。合成中にアナログ(偽物の塩基)を取り込むと、そこで反応が停止します
  2. 電気泳動による分離: DNAは負に荷電しているため、電場をかけると陽極側に移動します。短いDNA断片ほど早く進む性質を利用して、長さ順に分離します
  3. 配列の読み取り: 各DNA断片の末端には色素で標識がついており、検出器に到着する色素の順番(例:黒黒緑赤青黒…)から塩基配列(GGATCG…)が解読できます
  4. 配列のつなぎ合わせ: 短い配列を順につなぎ合わせることで、長いゲノム配列全体を解読していきます
【DNA塩基配列解読の概要(サンガー法)】
出典:日本生物物理学会 ‐ ゲノム解析

次世代シーケンシング

サンガー法を自動化し、さらに発展させたのが現代の主流である「次世代シーケンサー(NGS)」です。

NGSの最大の特徴は、超並列処理にあります。1本のDNAを順番に読んでいくサンガー法とは異なり、ゲノム(全遺伝情報)を一度に数百万〜数億もの断片に分解し、それらすべての断片の配列を同時に並行して読み解きます。

その後、強力なコンピューターを使って、バラバラに読み解いた断片情報をパズルのピースを組み合わせるように繋ぎ合わせ、元の長いゲノ-ム配列を再構築します。この圧倒的なスピードと処理能力によって、かつては国を挙げたプロジェクトとして十数年かかったヒトゲノムの解読が、現在ではわずか1日足らずで可能になったのです。

【サンガーシーケンサー(従来のシーケンサー)と次世代シーケンサーの違い】
出典:愛媛大学 ‐ NGS超入門 MiSeqシステムのご紹介

WHO ‐ Genomics

その結果、似ていると思っていたものが実は別の系統だったり、逆に見た目は異なっていても遺伝的には同じ仲間だったりすることが次々と判明しています。

数年前に新種と記載されたものがシノニム※に変更された、なんて話はよく聞きますね

シノニム(同物異名)📚

生物分類における「シノニム(Synonym)」とは、同じ一つの生物種に対して付けられた複数の学名のことです。日本語では「同物異名(どうぶついめい)」とも呼ばれます。

例えば、同じ種に別の研究者が気づかずに新しい名前を付けたり、分類学の見直しによって古い名前が無効になったりした場合に生じます。国際的なルール(先取権)により、原則として一番最初に正しく発表された名前だけが「有効名」として使われ、それ以外は無効な名前(シノニム)として扱われます。

イエネコの場合、かつて Felis domesticus と呼ばれたこともありますが、現在では Felis catus が有効名であり、前者はシノニムとして記録されています。これらの記録は「間違い」として捨てられるのではなく、過去の研究と現在の知識を紐付ける重要なデータとして、データベースに大切に保管されています。

参考・引用

Wikipedia ‐ シノニム
高知大学 ‐ 動物の学名
Encyclopedia Britannica ‐ classification Taxonomy
GBIF ‐ Synonymy

例えば、イエネコは以前 Felis domesticus と呼ばれたこともありましたが、DNA解析の結果、実はアフリカヤマネコの家畜化された個体群に過ぎないことが確認され、現在は Felis catus という学名に統一されました。こうした学名の変更は、生き物の進化的なつながりをより正確に反映するために不可欠なプロセスです。

先程触れたように「Felis silvestris catus 」と呼ばれることもありますが、こちらはシノニムではなく「有効な亜種表記」とされています。ダブルスタンダードのように見えて混乱するかもしれませんが、そこに至る経緯などの含め、視点を高くして全体として理解することも時には大切です。

複雑であることもまた、時には魅力なんですよ

科学が常に「最新の真実」を追い求めているからこそ、学名もまた「生きている情報」として進化し続けているのです。

知識をフィールドへ!学名の楽しみ方と調べ方

※Geminiより生成

ここまで学んできた学名の知識を、いよいよ「フィールド」という現場で活かしてみましょう。フィールドでの観察は、

  • 現地での発見
  • 即時の同定(特定)
  • 信頼できるサイトでの裏取り

という3つのステップを習慣にすることで、一気に専門的な研究へと近づきます。今日から実践できる、学名を使った新しい自然観察のスタイルを紹介します。

動物園・植物園では「キャプション」に注目

動物園や植物園の展示パネル(キャプション)は、単なる説明書きではありません。そこに記載された学名・採集地・保管機関といった情報は、その施設が科学的な根拠に基づいて展示を行っている証です。

これらの情報を管理・監修しているのは「キュレーター(学芸員)」と呼ばれる専門家たちです。彼らは国際命名規約に基づき、最新のシノニム情報や分類変更を反映させる重要な役割を担っています。

昆虫分野は膨大な種数の分野なので、予算の少ない筆者の職場には昆虫全ての分野をカバーできるほど研究者はいません。ときどき外部の研究者に専門分野の未整理標本の同定作業などをお願いしています。

展示パネルを見るときのコツは、学名の下にある属名(最初の単語)を見比べることです。例えば、「ライオン(Panthera leo )」と「トラ(Panthera tigris )」は同じ Panthera(ヒョウ属)から始まるため、見た目は異なっていても非常に近い親戚です。

このように、パネルの情報をメモ・撮影しておくことで、後からより深い調査が可能になります。疑問に思ったことがあれば、受付や解説員を通じて学芸員に質問してみるのも、学びを深める素晴らしい方法です。

便利なアプリや図鑑で「その場」で調べる

散歩中に見つけた知らない生き物を「その場で」調べるなら、AI技術を活用したアプリが強力な味方になります。特におすすめなのが、世界中の自然愛好家が参加する「iNaturalist(アイ・ナチュラリスト)」です。

写真を投稿するだけでAIが候補を提示し、さらに世界中の専門家が学名を特定してくれます。このプラットフォームの発展には、カリフォルニア科学アカデミーとナショナルジオグラフィック協会が中心となり、多くの研究者が携わってきました。

ほかにも、
・BIOME
・LINNÉ LENS
・Googleレンズ
などが、手がかりを探すのに役立ちます。Googleレンズ以外はアプリを使って観察の記録もできます。

日本での観察なら、ハンドブックを持って観察に出かけるのが王道です。

AIの判定は、写真やデータの蓄積具合によってはまだうまく適切な結果が出ないことがありますからね

ただし、AIには重要な盲点があります。見た目が似ている別種を誤認することがあるため、アプリの結果はあくまで「仮の同定」や「全くわからないときの手がかり」と捉えることが大切です。分類学では、まだ確定していない同定を示す際に「cf.(~に近い)」という記号を使いますが、フィールドでの学習段階では、まさにこの慎重な姿勢が必要なのです。

観察の現場では、「ほぼこれかな」くらいの感覚で、次のステップへ進みましょう。

信頼できるサイト・データベースで「最終確認」をする

現場で得た情報を確かな「知識」に変えるには、世界中の研究者が参照する公的なデータベースで裏取りをすることが重要です。スミソニアン博物館の「ITIS(統合分類情報システム)」は北米を中心に国際的な標準となっており、最新の学名や分類階級を確認するのに最適です。

日本の生物に限定して調べたい場合は、国立科学博物館が運営する「標本・資料データベース」や「サイエンスミュージアムネット(自然史)」、日本の生物分類データベースが役立ちます。

より詳しく調べたい場合は、「Biodiversity Heritage Library(BHL)」で過去の歴史的な記載論文を直接読むことも可能です。また、DNA情報に基づいた同定を確認したいときは、「BOLD Systems(DNA バーコード情報システム)」にアクセスすれば、遺伝子レベルでの正確な判定ができます。

このように、「現地で見つけた→アプリで候補を絞った→信頼できるサイトで確認した」という段階的なプロセスを習慣にすることが大切です。あなたの観察記録の蓄積は、目の前の生き物と世界中の知恵を結びつける、見えない糸の発見につながるかもしれません。

和名には命名ルールがあるの?

※Geminiより生成

世界中の研究者が共有する「学名」が厳格な国際命名規約によって守られているのに対し、私たちが親しんでいる「和名(わめい)」は、驚くほど自由で人間味にあふれた世界です。和名は、日本という土地でその生き物がどう見られ、どのように愛されてきたかという文化的な記憶を映し出す鏡のような存在といえます。

では、そんな和名がどのようなルールで決まっているのか、その内側を探ってみましょう。

実は学名よりずっとルールが緩い「和名」

学名が世界共通の「住所」だとすれば、和名は日本国内だけで通用する「ニックネーム」のようなものです。和名には、学名における国際命名規約のような、全世界で強制力を持つ厳格な「法律」は存在しません。

学名は「一種類につき唯一無二の名前」であることが絶対ですが、和名は地域によって呼び名が異なったり、歴史の中で変化したりすることが許容される柔軟な世界です。

この自由な文化を大切にしつつ、科学的な混乱を避けるために研究者たちが推奨するのが「標準和名」です。かつて植物分類学の父・牧野富太郎博士は、全国の草花に統一された日本語の名前を数千種類も授け、図鑑を通じてそれを広めました。

このように、和名は「専門的な知識を市民に届けるための言葉」としての役割を担っているのです。この親しみやすさが、科学と私たちの暮らしをつなぐ架け橋となっています。

タヌ山先生の力で「ゴミムシ」の呼び名をどうにかしてあげてください!

ゴミムシにはノーダメージですよ?

和名の基本的なルール

法的な強制力はないものの、日本の学会や図鑑編集者の間には、長年守られてきた「共通の作法」が一応あります。最も重要なのは、学術的な場では和名をカタカナで統一的に表記することです。これにより、科学文献における統一性が保たれ、誰が見ても同じ種を指していることが明確になります。

また、国立科学博物館などの専門機関が「標準和名」を提案・管理することで、複数ある和名の中から最も広く使われるべき「標準的な」呼び方が定められています。

こうした秩序を支えているのは、国立科学博物館の学芸員や各専門学会の編集委員たちです。定期的に検討会議を開き、新しい発見や分類の変更に対応して和名を更新し、古い図鑑と新しい図鑑の間での混乱を防ぐ地道な仕事を続けています。

この目に見えない努力があってこそ、図鑑の信頼性が保たれているのです。

国立科学博物館は、国内の研究機関のデータベースも収集しています。

毎年、指定のフォーマットに変換して、まとめて送っています

時々話題になる「トゲアリトゲナシトゲトゲ」とは…?

【トゲトゲのなかま(上の写真は Dactylispa xanthospila )】
出典:iNaturalist – Dactylispa xanthospila

ユーモラスな響きで知られる「トゲアリトゲナシトゲトゲ」は、実際にはトゲハムシ亜科に属するハムシの一群に由来する呼び名です。もともと「トゲトゲ」と呼ばれていたハムシに、トゲのない種が見つかり「トゲナシトゲトゲ(トゲナシトゲハムシ)」と呼ばれるようになりました。

【「トゲナシトゲトゲ」こと、オキナワホソヒラタハムシ (Agonita omoro )】
出典:iNaturalist – 写真 36952872 (熊盛志)

和名から探した上の写真の2種は、属からして違うのですが…
(これはかなりザックリした分け方で話が進んでいるのでは…)

さらにその後、「トゲナシトゲトゲ」の仲間の中から棘を持つもの(元祖トゲトゲとは別種)が見つかったため、愛好者や文献で「トゲアリトゲナシトゲトゲ」と紹介されたのです。

【おそらく「トゲアリトゲナシトゲトゲ」はこんな感じ(上の写真はPentispa clarkella )】
出典:iNaturalist – Pentispa clarkella (jmmaes)

同じ属からトゲトゲ→トゲナシ→トゲアリトゲナシを見つけたかったんですが、見つかりませんでした…。お調子者の昆虫学者がちょっとうまいこと言ったら、広く知られてしまったようですね。

ぼくじゃありませんよ!

でも隙あらば和名でふざけようとしていた時代、ありましたよね?

なんのことでしょう

ただし「トゲアリトゲナシトゲトゲ」という和名は公式には存在せず、国内産のトゲハムシには該当種がないことが確認されています。ユーモラスな命名が話題を呼ぶ一方で、研究者の間では「形容矛盾」として別名(ホソヒラタハムシ)が使われるなど、和名の柔軟さと文化的背景がよく表れた事例といえます。

名前を知ることは、相手を深く知る第一歩

※Geminiより生成

記号の羅列のように見えた学名も、時にユーモラスな和名も、その裏側には人類が数百年かけて築き上げてきた「生命を理解しようとする情熱」が凝縮されています。名前を正しく知ることで、目の前の生き物は単なる「背景」から「かけがえのない個」へと変わり、地球という家系図の中にその場所が見つかるのです。

学名という世界共通の「住所」と、和名という文化的な「呼び名(ニックネーム)」。この二つの名前を持つことで、私たちは生き物と二重の関係性を結ぶことができます。現在、GBIFやCatalogue of Lifeといった国際的なデータベースが日々更新され、タイプ標本の情報もデジタル公開されています。

これまで専門家だけが触れられた知識が、インターネットを通じて誰もがアクセスできるようになった…。この変化こそが、自然をより正確に理解し、次世代へ守り伝えるための基盤が整ったことを意味しているのです。

DNA解析のおかげで、「新種かどうか」の判断精度は格段に上がりましたが、その分、研究者には新たな知識とスキルが求められる時代になっています。

解析のためのPCはバッチリ揃えています!

でしたら私の作業用にしたPC見て、ときどき「これDNA解析ができるくらいハイスペックなやつなんですよ」ってプレッシャーかけてくるのやめてください。(これ10年以上前に買ったやつですよね)

さて、名前の「仕組み」をマスターしたところで、次は少し肩の力を抜いて、研究者たちの驚くべき遊び心に触れてみませんか?次回の記事では、「面白い学名・和名の生き物たち」を特集します。映画『ハリー・ポッター』に由来する「ヴォルデモートアリ」や、あまりにも意外な名前の由来を持つ生き物たちをピックアップしながら、学名の持つもう一つの楽しさをご紹介する予定です。ぜひお楽しみに。

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参考・引用文献

言葉の壁を越える魔法:リンネが作った「学名」の世界

International Commission on Zoological Nomenclature ‐ ICZN Official Website

International Association for Plant Taxonomy ‐ ICN for algae, fungi, and plants

Encyclopaedia Britannica ‐ Taxonomy: The Linnaean System

世界史の窓 ‐ リンネ

Wikipedia ‐ カール・フォン・リンネ

RHS ‐ Carl Linnaeus and plant names

学名の構造と書き方:Felis catus を解剖する

Wikipedia ‐ 学名

東京大学農学部図書館 ‐ Carl von Linne

福井県立恐竜博物館 ‐ 学名はどうやって決めるの?

日本分類学連合 ‐ 国際動物命名規約

学名を命名するときの基本的なルール

International Commission on Zoological Nomenclature (ICZN) ‐ International Code of Zoological Nomenclature Online

ICZN ‐ ZooBank: The Official Registry of Zoological Nomenclature

International Association for Plant Taxonomy (IAPT) ‐ International Code of Nomenclature for algae, fungi, and plants

University of Michigan ‐ What is a Scientific Name?

徳島県立博物館 ‐ 新種を発表するには?(2013年2月28日)

北海道大学 ‐ 命名規約 (nomenclature)(2025年3月25日)

猫の分類学的「住所」を調べてみよう:分類の階層構造

NCBI Taxonomy Browser – Felis catus (domestic cat)

Integrated Taxonomic Information System (ITIS) – Felis catus

Mammal Diversity Database – Felis catus

National Geographic ‐ Speciation

Wikipedia ‐ 種分化

猫の分類学的「住所」を調べてみよう:分類の階層構造

CInternational Commission on Zoological Nomenclature (ICZN) ‐ Opinion 2027

ICZN ‐ The Code Online (Glossary: Synonym vs Valid name)

Wikipedia ‐ 階級 (生物学)

Wikipedia ‐ ネコ科

Wikipedia ‐ タヌキ

福岡県 環境部 ‐ タヌキ

知識をフィールドへ!学名の楽しみ方と調べ方

BOLD Systems ‒ The Barcode of Life Data Systems

Biodiversity Heritage Library ‒ About the Biodiversity Heritage Library

ITIS ‒ Integrated Taxonomic Information System

国立科学博物館 ‐ Database of Specimens and Materials

分類学 文化
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